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最近の若手ギタリスト

講師の中村です。
最近の若手ギタリストがヤバすぎるので紹介していきたいと思います。

Alexandr Misko (アレクサンドル・ミスコ)🇷🇺

1997年生まれのギッチョ (左利き)ギタリストです。英語風にアレックスやアレクサンダーと呼ばれることもあります。彼の国ではあまりアメリカの文化を好まない風潮があるためか活動の拠点はヨーロッパで、主にドイツ語圏での活動が多いそう。まずはこの動画をご覧あれ。

とても1人で弾いているとは思えないマルチタスク感まぁそれがソロギターなんですけども。選曲もアレンジもとっても素敵です。機械のように緻密なテクニックにも、目が離せなくなります。といってもこのような正統派なスラム奏法 (ギターを叩いたりする弾き方)は彼にとっては序の口。ここ数年はそれに加えてラップまでしてやりだしました。次の動画ではEMINEM (エミネム)の『Lose Yourself (ルーズ・ユアセルフ)』『The Real Slim Shady (ザ・リアル・スリム・シェディ)』『Stan (スタン)』の3曲を順番にメドレー形式でカバーしています。普通に上手いと思います。

ところでどうしても気になるのが彼が弾いているギター。彼の使用器は比較的高い頻度で変わっていきますが、共通しているのは糸巻きがバンジョー・チューナー (その名の通りバンジョーや、あるいはウクレレにも使われますがチューニングが難しいため好んで使う人はほぼいない)タイプにリプレイスされていることと、プラグを挿す穴が異様に多いこと。2つ目の動画ではケーブルが4本もギターに挿入されています。1つ目の動画では4-6弦が振動しすぎないよう、あらかじめミュートもつけていますね。これはこーゆうアイテムがあるというワケではなく、恐らくヒモをくくっただけのようです。情報量が多すぎます。

スラム奏法で録音する際には、ボディヒットの音やスクラッチ音、ギターのエアー感 (生音っぽく聞こえる臨場感)から演奏を支える低音弦の音までをバランスよく録らないといけないのですが、彼のギターにプラグの挿し口が多いのはそれぞれの音をそれぞれのソースからキレイにアウトプットできるように改造されているからなんですね。

別の動画で新しいギターについて解説している彼は、演奏中にチューニングをすぐに変えられるよう、糸巻きだけでなくブリッジにも細工をしたと言っています。これはアイリッシュ・ハープ (竪琴)にもついているスイッチのようなもので、レバーを倒すと音が下がったり上がったりします。これはすごい。

こんな感じでサッとチューニングを変えられると。近年の彼はギター1本でできる演奏の幅を増やしたり、出せる音色を1つでも多く増やせるよう、あの手この手でクレイジーなアイデアを盛り込んでいます。バカですねぇ (いい意味で…)、そんな彼にギターを教わりたいです。

Antoine Boyer (アントワンヌ・ボワイエ)🇫🇷

こちらは1995年生まれのフランス人マヌーシュ・ギタリスト、Antoine Boyer。英語風にボイヤーと読む人もいます (ヨーロッパの名前は難しい)。マヌーシュは1930年代くらいのフランスで成立したジャズのジャンルの一種で、ヨーロッパ一帯にいるロマ人という異民族が中心となって演奏されていました。元々は”ジプシー・スウィング”と呼ばれていましたが、”ジプシー”はロマ人に対する差別的な呼称であるため、今はマヌーシュと呼ぶのが一般的です。ギターのほかにバイオリンやコントラバスなどで構成されることが多いですが、ギター2本でやったり、ギターとバイオリンだけだったり、パターンも様々。ちなみにマヌーシュで使われるギターは”マカフェリ”と呼ばれ、独特の弾き味と音色を持っています。いずれ記事にしますかな。

ちなみに僕が初めて観たAntoine Boyerの動画はこれ。『Donna Lee (ドナ・リー)』というジャズスタンダードの難曲を、いと簡単にマヌーシュテイストで弾いている動画でした。

メインテーマを弾いたら、その後はしばらく即興演奏。この動画の時まだ20歳くらいですが、レベル高すぎと思いますね…。左手のフォームがめっちゃキレイやと思います。普通、弦を押さえる左手の小指はなかなか言うことを聞かず調教に時間がかかるため、多くのプレイヤーが使うのを避けてフィンガリングしますが、彼は特にバタつきもせずスピーディに運指します。またロックミュージシャンの多くはネックを握り込むように押さえますが、これも長期的には腱鞘炎の元になったり生活に支障が出るため僕のレッスンではオススメしていません。彼の左手は真似してほしいくらい無駄がないです。姿勢ッて大事。

このようにコッテコテのジャズマンかと思えば実はクラシックもちゃんと踏襲してるので、フラット・ピッキング (ピックを使って弾く)だけでなくフィンガースタイルもこなす両刀使い。Domenico Scarlatti (ドメニコ・スカルラッティ)の『Sonata K.386』もサクッと。

余談ですが、この動画で使っているギターは彼が自分で作ったものでYohan Cholet (ヨハン・ショーレ)というギター製作家のもとで指導を受けたとのこと。良い音してますね。ギターが良いのか弾き手が良いのか分かりませんけど。

もし彼の音楽をサブスクやYouTubeで楽しみたいなら、こーゆうド真ん中のジャズや即興や独奏ではなく、クロマチックハーモニカ奏者Yeore Kim (ヨレ・キム: 確か彼の奥さん)とデュオでやっているアルバムが個人的にオススメです。派手さはないですが、音がキレイで癒されます。これはThe Beatles (ザ・ビートルズ)の『Blackbird (ブラックバード)』のカバー。めっちゃ良いです。

僕が今一番生で観たいギタリストの紹介でした。

Marcin Patrzałek  (マルシン・パトシャーウェック)🇵🇱

本日ご紹介する中では最も若手のソロギタリスト。またもスラム奏法系ですが、めちゃくちゃパフォーマンスが派手です (Alex Miskoよりも)。2000年生まれ、ポーランド出身、名前はMarcin Patrzałek (マルシン・パトシャーウェック)。英語風にパトルザレクと読まれることもありますが、インターナショナルな活動においては単にMarcin (マルシン)とだけ名乗っているみたいです。

彼がまだ15歳の頃、地元ポーランドのタレントショーに出演して賞金を得て、そこからメディアへの露出が増えて人気が出たみたいですね。数年後、海外進出を果たし、イタリアのタレントショーでも優勝、20歳の時にはアメリカであの有名な『アメリカズ・ゴッド・タレント』に出演してまたもや優勝。トントン拍子でレーベルも決まり、積極的なSNS発信などで最近めちゃくちゃ露出の多いギタリストの1人です。数年前この動画で釘付けになりました。

当初はこーゆう、クラシック曲をスラム奏法で派手にアレンジした動画が多かったです。ただAlex MiskoやAntoine Boyerのように涼しい顔してギターを弾くタイプではありません。全身で弾いてます。

ちなみに使用しているのはIbanez (アイバニーズ)という日本のメーカーで、エンドース契約もしているみたいです。Ibanezのエレキギターはハードロック系の速弾きの人たちが愛用するイメージありますが、アコースティックギターのユーザーはあまりピンとこないですね。でもIbanezのアコースティックギターは手頃な価格でデザインがめちゃくちゃ良いので個人的には好きです。ピックアップはFISHMAN (フィッシュマン)を使っていると思われます。

つい最近ではNito Ichika (ニト・イチカ)とコラボ動画を出して話題になりました。彼もまたヤバいギタリストで、タッピングでエモい即興します。2人揃うとこれまたアツいですね。他にも2人のコラボ動画はありますので興味あれば観てみてください。今ポーランドの隣でドンパチやってますんで、活動範囲がどうなっているやら細かいことまでは分かりませんが、今後もまたやらかしてくれることを待っています。

今日紹介したギタリストは3名ともクラシックギターやフラメンコギターの技術が土台になっています。僕は彼らのような緻密でスタイリッシュな基礎を感じる演奏の方が個人的に好みです。また世界の変態たちを見つけたらここにご報告申し上げます。

 

 

Midville’s
中村

音楽講師 / ビートメイカー

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