世界のフィンガースタイル・ギタリスト6選

講師の中村です。
僕の好きなフィンガースタイル・ギタリスト、とりわけ今の僕のスタイルに影響しているプレイヤーを6名紹介します。

目次

    Adam Miller🇦🇺

    Adam Miller (アダム・ミラー)はオーストラリア出身のギタリスト。オーストラリア国内のギターコンテストだけでなく、世界最大級のジャズコンテストであるカナダ🇨🇦のモントリオール・ジャズ・フェスティバルや、Tommy Emmanuel (トミー・エマニュエル)が審査員長を勤めたポーランド🇵🇱のギター・マスター2016などにも出場し、世界各地にその名を轟かせるプレイヤーです。各国のギター誌では「もっと知られるべきギタリスト」「将来伝説となりうるギタリスト」として評価されています。

    2013年以降はエレキギターでのバンドスタイルのインストがメインになりましたが、初期の頃はグルーヴィーなベースラインとアドリブソロを同時にこなし、全く予測不可能な運指とメロディラインで聴き手を魅了するアコースティック・フィンガースタイルが特徴でした。また大学で講師を務めたり、ライブで世界各地を回ったりする多忙な中でもほぼ毎年アルバムを出す多作家でもあります。

    僕は初期の頃のこのスタイルが未だに好きです。Adam Millerアドリブ中であってもベースのリフとストリング・ヒット (親指で弦を叩いてリズムを作る奏法)をほとんど止めないです。フィンガースタイルではこのストリング・ヒットを「音の合間を埋めるためだけ」に使っている人が多く、リズムを一定に保たないことが多分にあるのですが、低音弦とパーカッション (伴奏部)の土台を崩さずに弾き続けることをいともたやすくやってのけるAdam Millerはすごいです。ギターを弾かない人にはなかなか伝わらない魅力ですが…。

    Charlie Hunter🇺🇸

    ジャズ・ギタリストJoe Pass (ジョー・パス)に強く影響され、ハードロック・ギタリストJoe Satriani (ジョー・サトリアーニ)に指導を受けたCharlie Hunter (チャーリー・ハンター)。フィンガースタイル × アドリブという点ではAdam Millerと非常に近いタイプの人のですが、Charlie Hunterはギターとベースを同時に演奏する点で異なります。彼のギターは弦が8弦装備されていて、うち3本がベース弦、5本がギター弦という2 in 1の不思議な仕様。しかもファン・フレット。7弦仕様のものも見かけます。

    ベースを弾きながらコードを鳴らし、そこにアドリブを入れるという普通では考えられないことをやってのけます。よくばりさんです。キャリア30年を超える大ベテランですが、20代の時から一貫してこのスタイルなんです。彼の愛器はNovax Guitars (ノバックス・ギターズ)からCharlie Hunterモデルとして一般販売もされています。欲しいですけど、使いこなせる自信はありません。ていうか買う人いるんでしょうか。

    彼の音源はほぼバンドスタイルなので、今日紹介している他のプレイヤーと違って独奏のスペシャリストではありませんが、指弾きに関してはかなり卓越した技術を持っていることは間違い無いです。

    ちなみに全く独奏をしないワケではなく、SNSやYouTubeでは時折披露しています。

    特筆すべきはそのイカれた演奏スタイルだけではありません。彼のパフォーマンスではギターをハモンド・オルガンのような音色で演奏することがあり、これもまた彼特有のスタイルなんです。めっちゃカッコイイ。

    この映像は活動初期のもの。90年代からしばらくHughes & Kettner (ヒュース・アンド・ケトナー)のTube Rotosphere (チューブ・ロトスフィア)というエフェクターを使っていました。Charlie Hunterの代名詞とも言えるギターでハモンド・オルガンのような音を出すエフェクターです。最近は使っていないようです。2024年のインタビューでは「誰にあげたかは覚えてないけど、今もう持ってない。」と答えていましたし。

    独奏の醍醐味の1つに「1人で弾いてることを悟られないようにする」ッていうのがあると思うんですが、この人の音源を初めて聴いた人が独奏だと見破ることはまぁ無理でしょうね。こんなに弾けたらどんなに楽しいだろう。

    Don Ross🇨🇦

    カナダのプリンス・エドワード島に住む、限りなく人間に近いグリズリーことDon Ross (ドン・ロス)。アメリカのギターコンテストで>2度優勝しただけでなく、フィンガースタイルを専門にしたアメリカのインディーズ・レーベル、Candyrat Records (キャンディラット・レコード)と最初に契約したプレイヤーでもあるなど、ソロギター界では知らない人はほとんどいない&僕なんかが今更紹介するのも野暮なくらい超重要人物の1人です。

    力強く大胆なパフォーマンスがカッコイイですね。いわゆるスラム奏法とかバカテク系と呼ばれる系統の”THE ソロギター”なスタイルです。本人は自分の音楽を「ヘヴィー・ウッド」と呼んでいます。

    チューニングが曲ごとに違っていて、有名なDADGAD (ダドガド)だけでなくCGCGBbC、DACFCF…など、チューニングが変わるとより切々とした和声になるので、どこか物憂げだったり、神秘的に聴こえますね。またこういったチューニングは低音をより低く設定できるので一層音に深みが増したように感じます。ソロギター特有のアンニュイさは、このような変則チューニングに起因することが多いです。

    そしてこのDon Ross、実はバンドや歌モノの音源も出しています。また近年はゲーム音楽クリエイターとしても活動するなど、色んな顔を持つミュージシャンです。ちなみに歌、めっちゃいいです。男前な声してはります。

    Yamandu Costa🇧🇷

    これは倍速ではありません。Yamandu Costa (ヤマンドゥ・コスタ)はブラジル出身の若手ギタリスト。ブラジルといえば、Baden Powel (バーデン・パウエル)、Luiz Bonfa (ルイス・ボンファ)など、高度なテクニックを持ち世界中の音楽家に強い影響を与えた名演奏家が数多く輩出されてきた国です。僕が知る限り最も難しい”ギター練習曲集”を作ったVilla-Lobos (ヴィラ・ロボス)は、ギタリストではありませんが、同じくブラジル人です。まさにギター大国。

    Yamandu Costa7弦ギターを自在に操り、パワフルで狂いのない撥弦力と旋律的なフレーズが魅力です。どんなに速いパッセージも、大西洋の潮風のように爽やかな表情で弾きあげます。(※大西洋の潮風が爽やかかどうかは僕は知りません。)

    NHKでもインタビューを受けたようです。全編彼のYouTubeで観れます。これはそのインタビュー中での発言ですが、本当にギターが大好きで、ギターに敬意を払っているのが窺い知れる一言です。(ちなみにこのセリフ、2回言ってました。) 激しく賛同いたします。僕なら5回言います。

    一般的に彼の音楽はラテン・ジャズと分類されることが多いですが、厳密にはガウチョ (もしくはガウーショ)というそうです。ガウチョは彼の生まれ育ったブラジル最南端の街、リオ・グランデ・ド・スル州の文化で、隣国アルゼンチン共和国の中部パンパ地方の文化に非常に強い影響を受けています。

    まぁ、ブラジルにはサンバとかショーロとかボサ・ノヴァとかいろんな音楽があるワケですが、僕は細かい違いまでは分かりません。というかジャンルなんていっそどうでもいいのです。ただ1つ、確信できるのは彼が驚異的なテクニックを持っていて、音楽的センスに溢れているということだけです。そして彼から学んだことは、頑張ってもどうにもならないことがある、ということです。

    Roland Dyens🇫🇷🇹🇳

    チュニジア出身、フランスを拠点に活動していたRoland Dyens (ローラン・ディアンス)。クラシックをバックボーンに持ちながらジャズやラテンにも特化しているプレイヤーです。彼の代表曲”Tango En Skai (タンゴ・アン・スカイ)”はクラシック・ギター弾きの間で「なんちゃってタンゴ」としてよく知られていたり、”Libra Sonatine (リブラ・ソナチネ)”の第三楽章”Fuoco (フォーコ)”は少しジャズ的だったり。なんともジャンル分けの難しい人です。

    これまで紹介したアドリブ主義、スラム奏法、速弾きのどれにも属さない独特の音楽ですね。お上品で気取った感じの、いかにもフランスッて感じです。(偏見です。)

    また彼は即興演奏も好んで披露していました。それもジャズのように、決まった構成の中でのアドリブではなく、メロディも伴奏も展開もオチもその場で考えて弾くという超前衛的な手法で。

    クラシック・ギタリストとしてはかなり異端、かと言ってジャズ・ギタリストやラテン系のプレイヤーには分類しづらい…といったどっちつかずなポジションではありますが、クラシックを下地にしながら他のジャンルの要素を取り入れて新しい音楽を生み出すスタイルが僕はすごく好みです。クラシック上がりの人は、音楽的な表現力が平均的に高いですから。ギターを弾く人にしか分からない、”ギターのための音楽”じゃなくて、ちゃんと”ただ音楽”なんですよね。

    僕も何曲かコピーしたことがありますが、彼の曲はギターという楽器の特性を深く理解する手助けになるので、新しい視点を1つ増やしてくれます。

    Joe Pass🇺🇸

    彼をフィンガースタイル (独奏者)として扱っていいか迷うところです。彼の作品の多くはボーカルとのデュオや、ベース&ドラムを迎えたトリオ、またはそれ以上の人数で組まれたバンドスタイルで演奏されたものなので、彼をソロイストとみなす人は少ないかもしれません。

    ただ彼のキャリアにおいて、全曲ギター1本で録られたアルバム”VATUOSO (ヴァーチュオーゾ)”シリーズ全5作は無視することはできない作品ですし、Charlie Parker (チャーリー・パーカー)へ捧げたアルバム”I Remember Charlie Parker (アイ・リメンバー・チャーリー・パーカー)”や、遺作となった”Unforgettable (アンフォゲッタブル)”は同じくギター1本で録られたもので、ジャズマンが独奏する」というあまりに常識破りな演奏を当たり前のスタイルにした、という功績を鑑みると、まぁ、立派なフィンガースタイルとみなしていいのでは、ということで、Joe Pass (ジョー・パス)

    アルバム”VIRTUOSO #4″に収録されているスタンダード曲”Autumn Leaves (枯葉)”ですが、メイン・メロディの間に入る助奏 (オブリガート、いわゆるオカズ)がめちゃくちゃテクニカルでむしろこっちが主食なんじゃないかッていうくらい聴かせてくれてます。原曲の面影が薄いほど。気まぐれで弾いているようなテンポの揺らぎや展開、スッと受け入れるにはちょっと難解ではありますが、このブッ壊れた感性、クセモノ感がすごいですよね。ものすごいプライドが高くて、孤独で寂しそうだけど色気が半端じゃない。

    ただこういった揺らぎまくりの演奏が彼の本分というワケではなく、むしろ彼はリズムに対してかなり厳格です。バンド音源も是非チェックしてみてください。

    彼の曲の一部は譜面に遺されていて、比較的手に入りやすいです。それを後世のミュージシャンたちが翻訳して分析しています。YouTubeにもJoe Passを分析して解説している人が何名かいますね。…とまぁ、Joe Passは死して尚多くのギタリストに影響を与えている、まさに”ヴァーチュオーゾ (巨匠)”なのです。しかしながら、彼のフレーズは理論を超越しすぎてて容易く真似できません。

    僕の最終地点はこの人のようにエロく、気高く演奏することだと思っています。

    短くまとめるつもりでしたが、いつもと同じ長さになってしまいました。お読みいただきありがとうございます。

     

    Midville’s
    中村