
楽器の日
講師の中村です。
本日6月6日は”楽器の日”だそうです。「芸事は6歳の6月6日から始めよ」という習わしが由来とのことですが、僕は全く聞いたことがありません。面白いほど浸透していない”楽器の日”のことを僕はあまりよく知らないので、今回は楽器の日に託けて自分の愛器自慢でもしてみようと思います。
Morris SC171 Bevel

メインで使っているアコースティック・ギターはMorris (モーリス)のSC171 Bevelというモデルです。僕は”ベベル”と呼んでいます。このモデルはルシアーメイド・シリーズの1つで、最高峰製作者 (マスタールシアー)である森中 巧さんによって作られた1本です。
出会い

2014年のサウンドメッセ (国内最大級の楽器の見本市)に展示するために作られたショーモデルと聞いてます。このイベントが終わった後、当時勤務していた楽器店に入荷する手筈になっていて、検品を担当したのがたまたま僕でした。アコースティック・ギターの在庫だけで300本以上はあるショップだったので、下っ端はとにかく検品をしまくってたんですよね。
良いギターはやまほど弾いてきましたが、本当に素晴らしい個体はチューニングの時点で「おお!!」と思えるモノです。正直、後にも先にもこれより良いギター (自分が使う上で良いギターという意味ね)には出会ってません。手前味噌ですが音色の感じは動画を参照されたく存じます。
本来なら検品が終わったら販売の準備をするのですが、売れてしまうと困るので販売を出す前にマネージャーに「ローン組めますか…?」と相談。結局このギターが表に出ることはありませんでした。
仕様

スペック表をみてもチンプンカンプンな方もおられると思いますので、この項目では赤い枠のところのお話をしようと思います。
指板幅 (ナット幅)は44.0mmとありますが、ネックの厚みが薄くなっていて手に馴染みやすくなっています。グリップ感に関しては「ナット幅の狭さと”弾きやすさ”は関係ない」に詳しく書いてありますのでそちらも参考にしてください。
またペグ (糸巻き)はGOTOH社のものが標準装備となっています。多くのメーカーがGOTOH社の糸巻きを使いますが、中でも高級シリーズである”510Z”はチューニングのしやすさ、安定さ、正確さだけでなく、音も良いので気に入っています。あまり信じてもらえませんが糸巻きを変えると音色は結構変わるんですよ。重さとか素材で響き方が異なるので。

黒パーツが好きなので標準でこのルックスは個人的に嬉しかったのと、黒いノブが木製 (エボニー材)なのもまたオシャレだなと。これは大変に気に入っています。
また出荷時には弦をJim Dunlop (ジム・ダンロップ)社のものを装備しているそうですが、僕は普段はghs (ジーエイチエス)やRichard Cocco (リチャード・ココ)を使っています。太さはライト・ゲージ (標準的なもの)を使うことが今は多いです。この記事を書いている時点ではSAVAREZ (サバレス)のライト・ゲージを使っていますね。ギラギラしない落ち着いた音が最高です。
ギターの特徴
このギターには特筆すべき特徴が2つあります。

1つはサウンド・ポート。ギターの側面の板に空いている小さな穴のことです。これでギターの音をモニターできます。正面で聴いてる音 (一番良い音)を、弾きながら体感できる仕様です。メーカー品でこんな仕様は珍しいと思います。
もう1つの特徴は、”ベベル”と言われる特殊加工の部分ですね。

他のメーカーでは”コンター”や”アーム・レスト”などと言われています。ギターと触れる部分の角を滑らかに加工しているので、長時間弾いててもストレスになりません。腕に跡が付くこともありません。これもメーカー品ではなかなかないモノでしたが、最近は結構増えてきましたね。
ギター選びのポイント
僕がギター選びで気にするのは①塗装、②ブレーシング、③製作者。愛好家同士の会話では材料の産地の話題になることが多いですが、ぶっちゃけちゃんとした職人さんが塗装とブレーシングをきちんと作り込んだ方がハッキリ違いが出ると思います。
さて、僕のベベルはポリウレタン塗装を採用しています。これは特別な塗装ではありません。安物のギターと同じですが、個人的にはポリウレタンとかカシューみたいな塗装は強いので好きです。ラッカーやセラックは薄く仕上げることができるのでギターの振動を妨げないし音は格段に良いんですが、値段が高くなったり外気の影響を受けやすいので管理が大変なんですよね。セラックに関しては見た目が良い&修理がしやすいというメリットはありますが、汗と反応して白濁してしまうことがあるんで、汗っかきの僕にはあまり嬉しくない特徴…。どのみちアコギではあんまり使われない塗装ですね。僕は持ち運んだり路上で演奏もしたかったので、固くて丈夫なポリウレタンで十分だと思いました。
もう1つ、見えない部分なのであんまり気にしない人が多いですが、ブレーシングは本当にこだわった方がいいと思います。

ブレーシングは表板を補強する力木 (ちからぎ)のことで外からは見えないのですが、これをどう配置させるかで音の響きがガラッと変わります。あまり丈夫にしすぎると振動を妨げて音が悪くなるし、軽くしすぎると音はいいけどギターが脆くなるしで、長短があるんです。どのメーカーも、いかに強度を保ちつつ力木を軽量化するかを考えていて、物理学の観点から様々な試行がなされています。細かい談義はいずれ。

僕はラティス・ブレーシング (上の写真)という格子状に配列されたものが好きなんですが、これをやっているメーカーは結構少なくて…。
ラティス・ブレーシングのメリットは音がデカいことと、反応が早いこと。指弾きはピックと比べてタッチが弱いため、軽く弾いても大きな音が出てくれます。そして単音弾きが多いので、ピッキングしてからボディ全体が振動するまでの時間が限りなく短い方が嬉しいのです。
Morrisはこのラティス・ブレーシングを”AXLブレーシング”と呼んでいます。大きくクロスした太い力木の中に、細くて背の低い力木がたくさん格子状に交差しています。板に満遍なく繋がっているので均等に強くしますし、弦振動を素早く伝え合って板全体を揺らす効果があります。これが反応の速さのカラクリなんでしょうか。ただ、デメリットもあります。修理が難しいことです。また先ほどメリットとして挙げた「音がデカい」ことも、裏を返せば「強弱を表すのが難しい」というサイドがあるワケです。

このギターを作ったのはMorrisの最高峰製作者 (マスター・ルシアー)である、森中 巧さん。彼はMorrisのラインナップの「ルシアーメイド・シリーズ」という受注生産品のモデルを担当していて、材料選びから仕上げまで1人で行なっています。多くのギター愛好家は「何の材で作られたか?」を気にしますが、僕は「誰 (どこ)が作ったか?」を気にします。
個人的に好きなところ

ネックのところ (指板の裏)にトライバル・タトゥーみたいな紋様が入ってるんです。演奏中はお客さんから見えなのに、こんなところまでこだわってくれるの、最高の気遣いですよね。

それとギターのスケール (弦の長さ)が652mmもあって長いんです。これも個人的には気に入っています。通常アコースティック・ギターのスケールは630mm – 648mmくらいですね。スケールは長い方がハリが出て音が良いんですが、その分指が痛くなったりして弾きづらいんですよ。フィンガースタイルに特化したこーゆうギターは弾きやすさを優先して短めのスケールになっていることも多いんですが、Morrisは長めにとっています。ハリがある分、弦高を多少低めに設定しても結構弾けちゃうので、ロングスケールはオススメです。

もう1つは全体的なデザインですね。派手なデザインも好きですけど、自分が使うことを考えたら結局こーゆうシンプルなデザインがいいのです。ボディやサウンドホールのフチに白蝶貝が象嵌 (ぞうがん)されているくらいで、あとは木材の表情。なのにどこか高級感は漂う、気品あふれる素晴らしい1本です。
実は...
ベベルは2014年当時、2本のみ製作されているんですが、初期はヘッドにロゴが入ってなかったんですよね。僕の持っている個体もそのうちの1本なので、ロゴなしMorrisなんです。
現在はMorrisのロゴがデザインされています。

もうすぐ購入して10年になるので、それなりにエピソードも溜まっており、これを持って全国のジャズフェスを回った話や改造点、修理歴の話など、話したいことはあるんですが、ひとまずこの辺にしておきます。
Midville’s
中村
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中村
音楽講師 / ビートメイカー
『井上 陽水英訳詞集』 著: Robert Campbell <講談社>
ただ翻訳をしただけでなく、なぜそう訳したのかをあまり難しい言葉を使