
錆びない弦=良い弦なのか?
講師の中村です。
僕がElixir (エリクサー)の弦を使わない理由。
先に断っておきますがこの記事はElixirを貶めるためのものではなく、普段Elixirしか使っていない人に別の選択肢を提案することに主眼を置いています。好みは三者三様ですので、他人の"好き"を否定しませんが、一部Elixirユーザーにとってあまり気持ちのよくない表現が含まれるかもしれません。大らかな気持ちで読んでいただければと思います。
Elixirは錆びない弦

防錆加工がされた弦は世の中にたくさんありますが、まぁ金属ですので遅かれ早かれ劣化はします。ただElixirがクッタクタにヘタッているのを見かけたことはあんまりありません。よほど強いピッキングで弾き続けたり、手汗が酷ければ話は別ですが見た目からは劣化を全く感じないのがElixirの素晴らしいところ。
でも見た目がキレイならそれでいいのでしょうか。
錆びない弦は実用的なのか?
個人的に思うのは、錆びない弦よりも切れない弦が欲しいということです。個体差はありますが、他社に比べてElixirの弦は切れてしまうことが多い気がします。実際、工場出荷時にElixirを装備しているメーカーは多数ありますが、チューニング中にブチブチと切れてしまい楽器店で勤務していた頃は弦を単品で交換することが非常に多かったのです。これは個人的に結構ストレスでした。Elixirの弦は1本単位で買うと200円 – 800円ほどします。これはちょっとコスパが悪いなという気がします。

Elixirくらい大きなメーカーになると商品は大量生産されていますから、中には不良品というか、ハズレが入っている確率も当然あって、切れやすくなってしまっているロットが存在するのは仕方ありません。例えば同じく大手のD’addario (ダダリオ)やErnie Ball (アーニー・ボール)などはハイカーボン・スチールを含んだ合金を使用しており、比較すると切れにくいという特性があります (とはいえ不良品もありますけどね)。また、ハイカーボン・スチールを使った弦はチューニングの安定が高く音量もあります。
最近は錆びにくいだけでなくこういった切れにくい頑丈な弦が流通し始めています。

他にもSIT (エスアイティー)というメーカーの弦は激しいピッキングをするユーザーに支持されていて、ベンドで強く引っ張ったり、ピックを擦るように弾くメタラーのプレイヤーにも人気です。
防錆力でElixirに勝てるメーカーはありませんが、それ以外で比較すると良い弦の選択肢は他にも出てきます。
そもそもElixirはどんな会社なのか?

実はElixirはメーカー名ではありません。この弦を作っている会社はW.L.GORE & Associates (WLゴア・アンド・アソシエイツ)というアメリカの企業で、パッケージには上の画像のロゴが入っています。ちなみにこのW.L.GORE & Associatesはどんな会社かというとGORE-TEX (ゴア・テックス)を作っている会社です。

GORE-TEXは水や風を通さない生地素材の商品名で、THE NORTH FACE (ザ・ノース・フェース)のアウターにはこのタグがついているので、そーゆう服が好きな方なら見たことがあるかもしれません。他のメーカーとは毛色が少し違いますね。
前述の通りElixir (W.L.Gore & Associates)の防錆加工力は間違いなく高いのですが、僕があまりこの弦に良い印象を持っていないのは、弦そのものに関してどこで作っているのか、どのようにして作っているのか、仕様がほぼ公表されてない点。D’addarioの弦をバルクで購入しているという噂もありますが、どうでしょう。一般的な工場では、機械のスペックや製品のレシピをフロア全体で可能な限り統一することを好む傾向があります。D’addarioとElixirは巻弦の長さが異なりますし、弦を作るための自社工場を所有しているメーカーは限られていますので、そもそもどこかから購入している可能性自体低いんじゃないかと。
まぁそれがそんなに重要かと言われたらそういうワケでもないんですが、Elixirは1セットで結構な値段だから、いくら錆びないとは言えもうちょっと中身の方もちゃんと作ってて欲しいなという一消費者の価値観です。
またElixirのパッケージは、酸化しやすい紙素材を採用している点も好きじゃないです。長期在庫してるお店で買ってしまうと、普通に湿気てることもあるんで、僕の中でこれはかなり残念ポイントです。
他社の防錆弦 / コーティング弦と比較してみる
Elixirが錆びにくいのは、特殊な薬品を隙間なく弦の表面に塗布しているからです。

これは弦を作った後に防錆薬品をコーティングしているため、空気が入る余地がなくなって酸化しにくいからです。そのため表面がサラサラしていて、これを弾きやすいと感じる人もいればそうでないと感じる人もいて賛否あります。離弦ノイズ (キュッという音)が出にくいのは良いですが、指がツルツル滑って弾きづらいかもしれませんね。
同じようにコーティングによって防錆加工をしているD’addarioは、Elixirとは違って薬品を塗ってから弦を巻き巻きしています。なので弦の内部まで防錆されている点が良いです。さすがに錆びづらさではElixirには劣りますが、相対的には長寿命な方だし、先ほど書いたように金属そのものが強いので切れにくいというメリットを取れば普通に良い弦だと思います。(D’addarioも量産だけど、アメリカ国内にちゃんと自社工場もあるしね。)
Dean Markley (ディーン・マークレー)というこれまたアメリカのメーカーは一風変わった弦を販売しています。Blue Steel (ブルー・スティール)というモデルはコーティングによって長持ちをさせるのではなく、弦に使用する金属の部材を最大マイナス196度で冷却して原子レベルで金属を再配列させる (クライオジェニック処理)という手法を採用しています。まぁ、Elixirと違って”防錆”を謳っているワケではないのですが、個人的には理にかなった手法だと思っています。ただその冷却処理が金属にとってどれだけ良いことかが分からないと、「よし、買ってみよう」という気にはならないですよね。すごく良い弦なのに、分かりづらい。

もう1つ分かりづらい弦があります。アメリカのLaBella (ラベラ)はクラシックギターだけでなくエレキギター、ベース、バイオリンなどあらゆる弦楽器の弦をハイクオリティで生産しているとても歴史あるメーカーですが、アコースティック・ギター弦のラインナップに”イオン蒸着”の処理をしたモデルが存在します。

この弦も使ったことがあります。個人的には良い感じでした (値段が高いことを除けば)。コーティング弦特有の”表面の違和感”もないし、こもったような音でもなく、コーティングされていない普通の弦と同じような弾き心地なのに、かなり長持ちしてくれました。ただこんな図を見せられても分かりづらい。イオン蒸着ッて何…?ッてなってる人がほとんどだと思います。早い話が金属の原子の1粒1粒を強結合/改質させて金属そのものの寿命を伸ばす処理だそうです。どっちかというとコード弾きがメインの人に合いそうなサウンドでした。
結局、色々試して好きなのを使いたい
僕は音色と弾き心地が全てだと思っているので、Elixirのように”錆びない”意外に取り柄のない弦にはそもそもあまり魅力を感じていないのです。教室のレンタル用に使っているギターにはElixirを装備していますが、それはギターとの相性を無視してコスト重視にした結果であって、自分が弾くためのギターにはそのギターの良さを引き出してくれる弦を使いたいなと思います。
ちなみに、僕が好きなのはイタリアの”ハンドメイド”弦メーカー、Richard Cocco (リチャード・ココ)。あとはghs (ジーエイチエス)や、SAVAREZ (サヴァレス)も多用します。
楽器店でスタッフをしていた頃、僕があまりにもElixirをオススメしないからお客さんの間で「あそこの店員さんはElixirが嫌い」という噂が広まりかけたことがあるそうです。実際、あるお客さんから直接「あなたがElixir嫌いの店員さんですか?」と言われた経験があります。一部で僕をそう認識している人がいるみたいでした。…ElixirとかD’addarioみたいな有名な商品はわざわざお客さんにオススメしなくても勝手に売れるのよ。もっとツウで優れた弦をお客さんに認知してもらうのが、ディーラーの仕事でしょう。人気商品しか売れない奴にセールスなんてできるかえ。
Midville’s
中村
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中村
音楽講師 / ビートメイカー
“Finger Pickers Took Over The World” (Chet Atkins with Tommy Emmanuel)
ある師弟ギタリストのコラボ作品
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