
上手くなりたきゃ休憩をしなさい
ギター講師の中村です。
2021年、NINDS (アメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所)が非常に興味深い論文を出しました。要約すると、技術を上げるためには”休憩”が不可欠であるというもの。練習は1時間ぶっ通しでやるよりも、15分おきに休憩した方が上達への近道になるみたいです。
今回はこの論文をベースにあれこれ考えてみることにします。
5分間ボーッとせよ
手っ取り早く上手くなるような魔法のメソッドがあれば、本や動画にして有料で大儲けしたいところですが、残念ながら近道がないのが芸の道…。楽して上手くなりたい、そんな皆さんに朗報です。
なんと最近出た論文によると、練習をより効率的にさせるのは”休憩”であることが分かったとのこと。

以下、論文の引用を日本語訳したものです。(訳は中村です。)
"継続は力なり"という有名な慣用句は、技能の獲得と完成には激しい練習が重要であることを強調している。しかし同じ練習量でも、トレーニング期間内の休息の有無によって、結果的に得られるスキルが大きく異なるという現象があり、これはスペーシング効果と呼ばれている。同じ総量の練習をより長く連続して行う集中学習よりも、頻繁な休息時間を練習の隙間に挟む分散練習の方がスキルの定着が優れているのだ。
スペーシング効果は間隔効果などとも呼ばれ、学習塾で働いていた頃はたまに耳にした言葉ですが、一般的にはどこまで知られているのか…。まぁ、要するに、忘却曲線に合わせて定期的に復習しなければ学習内容は定着しないよね、という定説です。
ただ、今回の論文ではそのような勉強に必要な間隔とは違って、もっと短いスパンでの”休憩”を指しています。極端に言えば、15分楽器を練習したら、5分休憩する。そんな具合です。
この”休憩”は原則として何もしないことを意味します。起きている状態で、スマホをいじったりせず、人と会話もせず、そして何も考えずに一定の時間を過ごすことがいいとされています。
僕もレッスン中に少し休憩を取ることがあるのですが、生徒さんたちは手持ち無沙汰になって結局ギターを弾いて過ごしてしまいます。この記事を読んだら何もせず過ごすことを日々の生活の中で取り入れてみてください。
休憩中に何が起きているのか?
休憩中に脳内ではそれまでの練習で行なっていた動作が約20倍のスピードでリプレイ (反復)されているそうです。定着が早くなるとのこと。
脳内では何が起きているのでしょうか?下記引用文です。
脳が覚醒休息中に、非連続的な一連の挙動をどのように正確なスキルに結合するかは分かっていない。ただ考えられるメカニズムは神経再生で、休息中に一連の挙動を表す神経活動が、時間的に圧縮されて再活性化することである。ネズミを用いた以前の研究で、海馬の再生は非連続的な空間位置に関連づけて地図のように構築させることができることが示された。さらに海馬の活動は、ヒトの初期学習の休息期間中に記録されている。したがって覚醒再生は、直前に練習した内容の再現を通じて、技能の目覚ましい定着を促す可能性がある。

海馬は脳の中にあるタツノオトシゴみたいな形をした器官で、上の画像の青い部分です (実物は多分青くない)。記憶や学習能力などを司っているとのこと。海馬についてそれ以上のことは何も知りません。
ちなみにこの引用文にたびたび「覚醒」という言葉が出てきますが、ここでは「起きている状態」ぐらいの意味でとらえておくのが妥当と思われます。要するに、目を開けて起きたまま休憩すると頭の中が高速活性してこれが技術の定着を早めるということです。実際に「休憩なしでひたすら練習する人」と「こまめに休憩する人」とではスキルの定着に大きな差が出ていて、後者の方が良かったそう。
まとめ
起きている間にとる休息は、スキル習得にも寄与する。(中略) このように、覚醒的な技能の定着の一形態は、これまで考えられていたよりもはるかに短い時間 (数秒から数分)で発達している。重要なのは、このような覚醒下での記憶定着の形態は、古典的に研究されている睡眠を必要とする夜間定着の約4倍の大きさであり、練習経験が半分に減少しても保存される。
15分練習 – 5分休憩 – 15分休憩 – 5分休憩…と繰り返していくことで、できなかったことができるようになったり、それが習慣化していくと良いことがあるよ、という内容でした。
今回紹介した論文で触れられていたのはあくまでもスキル訓練 (技能の獲得)に対してのお話がメインでしたが、間隔効果が示すように学習に対しても一定の効果が期待できると言えます。ただ起きている状態の休憩と、睡眠との差がどうなのか、中身を読んでもイマイチよくわかりませんでした。兎にも角にも、スキル訓練の場合においては、起きながら休憩しておくのが良策だということみたいです。
Midville’s
中村
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中村
音楽講師 / ビートメイカー
『井上 陽水英訳詞集』 著: Robert Campbell <講談社>
ただ翻訳をしただけでなく、なぜそう訳したのかをあまり難しい言葉を使