ギター講師の中村です。
「毎日3時間練習しています。」そんな話を聞くと「すごいなぁ」と思います。
でも実は、長時間ぶっ通しで練習することが一番効率がいいとは限りません。アメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)が最近発表した興味深い論文によると、短い休憩を挟んだ方が技能の定着が早くなるという結果が報告されています。
今回はその研究を紹介しながら、ギター練習にも応用できる考え方を紹介します。
目次
ギターは長時間練習しない方が上達する?
手っ取り早く上手くなるような魔法のメソッドがあれば、本や動画にして有料で大儲けしたいところですが、残念ながら近道がないのが芸の道…。楽して上手くなる魔法ではありませんが、練習効率を高める方法ならあります。
2021年に出た論文によると、練習をより効率化するのは”休憩“であったということ。
以下、論文の引用を日本語訳したものです。(訳は中村です。)
同じ総量の練習をより長く連続して行う集中学習よりも、頻繁な休息時間を練習の隙間に挟む分散練習の方がスキルの定着が優れているのだ。
これはスペーシング効果または間隔効果などとも呼ばレテいます。一般的に流通している言葉ではないと思いますが、僕が以前働いていた学習塾ではたびたび耳にした言葉です。要するに、忘却曲線に合わせて定期的に復習しなければ学習内容は定着しないよね、という定説です。まぁ要するに、「まとめて1回やる」より「間隔を空けて何度もやる」方が覚えやすい、という考え方です。1日1回の大食いではカロリーオーバーになるので、1日5回の小食をした方がダイエットに向くのです。
今回言われている”休憩”は「勉強の合間に睡眠を取れ」と言ったような大きな間隔ではなく、もっと短いスパンでの休憩を指しています。極端に言えば、15分楽器を練習したら、5分休憩する。そんな具合です。この休憩は原則として何もしないことを意味します。起きている状態で、スマホをいじったりせず、人と会話もせず、そして何も考えずに一定の時間を過ごすことがいいとされています。
睡眠と記憶定着に関する実体験
学生時代、暗記科目が大嫌いでした (今もですが)。特に社会。歴史そのものは好きですが、北海道は歴史が浅い町なので日本史を覚えようと思っても結局異国の歴史みたいで、ちっとも入って来ませんでした。
当時の担任 (音楽科担当)が「暗記科目は寝る直前と、起きた直後にやると短時間で覚えられるよ」と言っていたのを僕は騙されたつもりで実践しました。すると確かに、頑張った時間以上に点数が良かったのです。
この戦法のよくなかったところは「睡眠はいいこと」という刷り込みがすっかり浸透してしまい、合間に昼寝を挟んだりしても罪悪感を感じなくなり、テスト前でも平気でそこらへんで寝る子になってしまったという点。
ただ僕にはこの経験があったからこそ、「休憩はいいこと」という論文を読んだときに「あ、寝ずに短い休憩を取ればよかったのか!」と腹落ちしたワケです。
休憩中の脳内では何が起きている?
休憩中の脳内で何が起きているかというと、
海馬の活動は、ヒトの初期学習の休息期間中に記録されている。したがって覚醒再生は、直前に練習した内容の再現を通じて、技能の目覚ましい定着を促す可能性がある。
だそうです。要するに、それまでの練習で行なっていた動作が約20倍のスピードでリプレイ (反復)されているということ。この時間に高速で定着が進んでおり、休憩を取らない人よりも早くなるとのこと。
ちなみに海馬は脳の中にあるタツノオトシゴみたいな形をした器官で、下の画像の青い部分です (実物は多分青くない)。記憶や学習能力などを司っているとのこと。
また、引用文に出てくる「覚醒」という言葉は、キマッている状態のことではなく、「起きている状態」ぐらいの意味です。要するに、目を開けて起きたまま休憩すると頭の中が高速活性してこれが技術の定着を早めるということです。実際に「休憩なしでひたすら練習する人」と「こまめに休憩する人」とではスキルの定着に大きな差が出ていて、こまめに休憩する人の方が良い効果があったそう。
試しに15分+5分を繰り返す練習を1週間やってみよう
起きている間にとる休息は、スキル習得にも寄与する。(中略) 睡眠を必要とする夜間定着の約4倍の大きさであり、練習経験が半分に減少しても保存される。
論文の中では「15分練習 – 5分休憩 – 15分練習 – 5分休憩…と繰り返していくことで、できなかったことができるようになったり、それが習慣化していくと良いことがあるよ」、いうことまで言われています。
僕が書く多くの記事では「上達は急がない方がいい」「音楽は短距離走ではなく長距離走」という旨をお伝えしておりますが、効果的な練習が全くないというワケではありません。試しに皆さんもやってみてください。
なんにだって言えることですが「頑張った時間」で上手くなるというよりも「定着した時間」で上手くなります。特に技能習得に関してはこのスペーシング効果がよいとされています。だから疲れて休むことは決して悪いことではありません。それはサボりではなく、脳に仕事をさせる時間なのです。「今日は集中力が切れたな」と思ったら、無理に続けるより5分だけ何もしない時間を作ってみてください。
その5分が、明日の演奏を変えてくれるかもしれません。
Midville’s
中村

“上達したい人必見!練習は”休憩とセット”で” への1件のフィードバック
[…] https://midville.biz/2022/05/26/musicandbrain/ […]