講師の中村です。
SNSはイヤでも他人の不平不満が目に入るのですが、中でも僕は”楽器屋キャンセル界隈”に強い関心があります。一個人が楽器屋さんで体験した不愉快な出来事へのお気持ち表明、僕も後学のためによく読みますが、加熱するとネガキャンしたいだけの人まで群がりだして言いたい放題になることがよくあります。
お店はわざわざ反論しないのでネット上ではサンドバッグ状態になりますが、専門店に勤めていたことがある経験から言いますと、こーゆうモメごとはたいていはお客さんの落ち度も五分五分です。今回の記事では実際にあったクレームの具体例を掘り下げつつ、このような”楽器屋批判”によって生じるキャンセル・カルチャーをクリティカルに分析していこうと思います。
目次
自分の落ち度には触れない
20代の時、楽器店に勤めてて最初に受けたクレームメールを今でも覚えています。こう書いてありました。
「ギターを見ていたら店員から勝手に触るなと怒られました!当方ギター歴30年でその店員が生まれる前からギターを触っています!俺の方が扱いには慣れてるのに失礼だ!眼鏡をかけたスタッフだった!あいつを辞めさせろ!!もう店には行かない!!返信不要!!」…ざっくり、こんな趣旨でした。その日出勤していたメガネは僕だけでしたし、キレ気味に注意したことも覚えています。確かにこの情報だけだと、10:0で僕が悪いです。でもこれ、お客さん自身の言動について何も書かれてなかった点は全くフェアじゃないなと思いました。
クレーマーは基本的に嘘は言わないが都合の悪いことも言わず、ただ被害者として他罰に勤しむという趣味の悪さがあるので厄介です。SNSに巣食う「楽器屋キャンセル」も半分くらいはそうで、本当に10:0で店が悪いのか?と思う場面があまりにも多いのです。
そもそもこの日、会議で社員たちは不在、後輩は公休。そして事件が起きた当時、先輩は休憩中。まぁ、平日昼間の時間帯だったので中村1人で大丈夫だろうという判断があったんでしょう、僕は広いフロアに1人でした。ところが思いのほか来客数が多く、中には常連さんもいて、接客、レジ打ち、電話…と孤軍奮闘しているところに奥のエレアココーナーでギターを什器に思いきりぶつける音が聞こえてきました。僕がいたショップはテレビの取材がたまに入るんですが、その度に撮影クルーが何十万円もする高級ギターを10本以上ドミノ倒ししてきた過去もありますし、ワケの分からんオッサンが突然店頭のGibsonの塗装をヤスリで削り始めることもあるんです。店頭ではそーゆう奇々怪界なことが起きるんです。なので経験上、スタッフはこーゆう音にとても敏感になります。
什器にぶつかる音を聞いた僕はすぐにエレアココーナーに回り、「気をつけてください、言うてくれたら僕が出しますんで」と強めの口調で声をかけました。50代くらいのスーツ姿の男性がそこそこお高いギターを手に取っていて、「ん?あぁ、大丈夫大丈夫」と言いながら元の位置に戻そうとしています。またぶつけると困るので「僕がやります」と言ってギターをキレイに拭き、丁重に元に戻しました。
いちいち上席には言いませんでしたが、当時の状況はこんな感じ。これで10:0でこっちが悪いワケがありません。
確かに僕の態度はお世辞にも良かったとは言えないのですけど、前提として多くのギターショップでは商品に勝手に触れないのはマナーでしたし、誰かが買うかもしれない高級品に指紋つけたりキズつけたりするなんてありえないことです。故意じゃないとしても、歓迎はされません。お目当てのギターを見に行って指紋だらけだったら萎えませんか?”30年”というギター歴を誇示するのであれば、その辺の配慮はせめてするべきです。ッてことを勘案すると、まぁ五分の手打ちがいいとこじゃないですか。
僕が言いたいのは、「あの時の僕は悪くない!」ッて話じゃなくて…、都合の悪いことを言わずに自分の主張を押し通すのはクレーマーの常套手段だッて話です。いい大人が仕事抜け出してショッピングした先で商品を雑に扱った背景を隠して、スタッフの言動にメンヘラ発動してお気持ち表明するのはSNSでもよくあること。
この画像はあくまでもイメージですが、悪質なSNSアカウントであれば、店名だけでなく個人まで特定可能なレベルの晒し行為を匂わせてきます。自分に本当に落ち度がないのなら、直接店と会話すればいいのです。
「知らなかった」がクレームになるケース
もう1つありがちなのは、後から「そんなの知らなかった、金返せ」と言われてしまうケースです。これはお店側の落ち度が大きいです。修理案件によくあります。
職場で語り継がれていた実例ですが 、あるお客様がフレット交換依頼でギターをお持ち込みになった時のこと。一般的に、ギターのパーツをリプレイス (交換)する場合、ほんの少しの重さや素材が変わるだけで音色が変化してしまうことがあります。特にフレットや糸巻きなど、金属パーツは音色に大きな影響があるんです。そんなの、一般ユーザーは知らない方が多いです。なのでリプレイスが絡む修理では「音色や弾き心地が変わってしまう可能性がありますがいいですか?」と一言”事前に“添えておくことが、僕のいたショップでは通例でした。…が、たったこの一言を忘れてしまうスタッフもいたワケです。
これがフレット交換など費用のかかる大がかりな修理の場合かなり厄介で、その修理完了品をお客様に確認していただいたところ「元のギターと音色がちゃうやないか!気に入らん!!」と仰せになったそうです。結局、元のフレットに打ち直してお返ししたそうです。
クレームは、お店側かお客側どちらかの確認不足によって生じます。でも大半はお店側の確認不足だと思っています。
事前説明ッてめっちゃ大事です。「年末料金でお食事代+10%かかります」「予約枠がラストなので時間外料金がかかります」など、どんな仕事でもこーゆうことはできる限り前もって伝える必要があります。仮に法的な説明義務がないとしても、消費者側の心理が「故意にやったのではないか?騙されたのではないか?」となった時点でケンカになってしまいます。ややこしい答責問題に発展したり、「このまま契約すればトラブル不可避」な時は「法的に問題ないから」という一言では実質的に逃げられません。
しかもこーゆう風評はよく回ってしまいます。ホントは悪いショップでなくても、1つ悪例が出てしまうと注意喚起の意味で名前が広がってしまうのです。
楽器屋叩きに精を出す楽器屋やメーカーも…
SNSでも散見されますが、大手楽器店叩きに便乗する個人商店のオーナーもいます。とかく名前があると叩きやすいみたいです。僕の地元・札幌のとあるショップに行った時、店主は僕が同業者であることを知るやいなや意気揚々とこう言いました。
「ウチのギターはね、いい個体を直接倉庫まで行って選んでるよ!大手なんか現物も見ずにカネにモノ言わせて大量に仕入れて売ってるだけなんだから!もうあんなの流れ作業ですよ!!そんなのは仕事ッて言えるんですかねぇ!同じメーカーのモデルでも、ウチで買った方が絶対いい個体だから、みんなウチに来ればいいんだよ!」
…まぁ、なんというか思うことはたくさんあるんですが、このオーナーが選ばなかった個体もこの世のどこかで別のユーザーが喜んで使ってるワケで、そーゆうエンド・ユーザーの姿を想像できないのは音楽産業の一端を担う人間としても致命的ですし、そもそも同業者を叩かないと自分の意見も通せないのは害悪すぎますよ。その視座の低さで事業やらん方がいいと思います。それにね、客は講義を聞きに来てんちゃうんすよ。勝手に思う分にはかめへんけど、お客さんと向き合ってない自己満足の仕事ッて感じです。弟子やったらパンパンやなお前。
攻撃はただの承認欲求
もちろんSNSに何を書こうが自由です。ただ少しでも影響力のある人が「〇〇楽器でこんな目に遭った!!〇〇楽器はそーゆう店ですよ!!みんなも気をつけて!!」と発信して、不可逆的に非難が集中してしまうことはやや問題だと僕は考えています。正義ッてそんな簡単じゃないです。まぁ、もちろん、本当に楽器店側がヒドいなと思う話も”かなり”ありますが、それでも体感的に半数くらいは被害者を装って攻撃したいだけの集団に見えます。
ここから今回の本質的な話になるんですが、楽器屋に限らず、〇〇キャンセル界隈のスキームは割とシンプルです。
①みんなの目につくように「ねえ、みんな聞いて!」と煽り、
②裏の取れないことまで事実であるかのように語り、
③自分の都合の悪い部分には触れずに話を進めて、
④問題解決はせずに「こんな酷い目に遭いました、とても傷つきました」と感情論にすり替えて、
⑤対象の企業や個人を排斥、
⑥フォロワーからヨシヨシしてもらう、
以上です。
こういった行動は差別や不買運動、脅迫やその他の犯罪行為とも地続きです。いかにキャンセル・カルチャーがくだらん承認欲求であるかを象徴していると思います。
そして批判覚悟で言いますが、店とモメやすい人ッてハナから不快指数がちゃんと高い傾向があると思います。服装や歩き方、表情はもちろん不潔だとか偉そうだとかそーゆうインターフェースもです。脊髄反射的な話し方や否定から入るリアクション、全部スタッフにも見られてるんですよ。「何もしてないのに拒絶された」と嘆く人が本当に「何もしてない」ッてことはないはずです。長くお店に勤めていれば、購入意欲が高い人、ワクワクしてる初心者、単なる冷やかし、マウント取りに来た奴、そのどれでもない人、挙動を見ればある程度分かります。そこで篩にかけられてあしらわれてるんです。コミュニケーションは言葉によってのみ行われるワケじゃないので、マイクロ・アグレッション (悪意なくやったことが相手を傷つけるケース)が引き金になって不信感を与えることだって往々にしてあるワケです。
だから、SNSでの一方的な「被害申告」はただのヘイトで、承認欲求。
もしこれを読んでる皆さんがどこかのお店との間で何かトラブルが生じたら、もう行かなければいいです。客じゃないから。もし自分で直接カスタマーサポートにクレームを入れる場合、自分の行いを振り返ってからの方がいいでしょう。
この先楽器屋さんの数は減ると思います。それは市場縮小ではなく、ショップの無人化 (自動販売化)が進んだり、あるいは車や洋服のようにメーカーの直販化など、さまざまな変化に世間が対応することによってです。一部のプロショップや高級品店、ヴィンテージ専門店だけを有人にすれば、ショップを嫌う人/ショップから嫌われる人の濃淡がハッキリするのでこーゆうトラブルももっと減ると思います。
Midville’s
中村
