講師の中村です。
ヤイリギターに行ってきた話。
かれこれ2-3年くらい習っている生徒さんが、「新しいギター欲しいなぁ」と仰って、あーでもないこーでもないと話しているうちにK.Yairi (ケーヤイリ)のギターが良いのではないかという話になり、岐阜県のヤイリギターに直接行ってオーダーすることになったので、一緒に行ってきた。実は生徒さんのギター購入の同伴はよくやっていて、だいたいはアメ村にある元職場に一緒に行っていい感じにしてもらうのがいつものパターンなのだけど、工房に直接行くのは初めて。ヤイリギターには行ったことがなかったので楽しみにだった。
土地が安いからだと思うけど、ギター工房ッてだいたい辺鄙な場所にある。K.Yairiを作っている株式会社ヤイリギターは岐阜県可児市にあるので、大阪から行くとなると一旦名古屋を経由して犬山までいき、そこから各駅停車に乗ってさらに5駅。2時間半から3時間くらいかかる。最寄りの日本ライン今渡駅からは10分くらい。
入り口はこんな感じ。
入るとすぐに事務所があった。
上の写真に写っているニッコリメガネ紳士はヤイリギター2代目社長の矢入 一男さん。60-70年代から始まったオリジナル・ブランド、K.Yairiは彼の名前に由来している。
矢入さんは厚生労働省から「現代の名工」を表彰された職人さんで、この賞は金属加工から大工、洋服の仕立て屋さん、ソムリエ、料理人など幅広い業界から選ばれた名人たちが毎年100名以上受賞しているとか…。ただギター界ではなんとただ一人、矢入さんだけがこの称号を持っていると。2014年に亡くなってからは3代目の矢入 賀光さんが引き継いで、創業90周年を迎える超老舗のギター工房になった。
工房は少数精鋭でおよそ20-30名の職人さんがいて、1日の生産本数は15本程度。1人でやっている工房だと年産4-5本が平均だと思うので、そう考えれば結構ハイペースな生産量。
上品で暖かく、落ち着いた響きと癒しの音色が特徴。マイク乗りも良いので、レコーディングにもライブにも向いてると思う。楽器店で働いてた頃、この「落ち着いた響き」に対して「全然鳴らないじゃないか!!GibsonやMartinのようによく響くギターが欲しかったのに!!」とクレームを受けたことがある。K.Yairiの良さはこーゆう奴には分からない。それやったらハナからGibson買いに来い。K.Yairiはお前にはもったいないわ。
余計な思い出話はさておき、K.Yairiの良さはなんと言っても国産で故障が少なく、手が小さめの日本人の手によく合う小ぶりなネック、そして職人の魂がこもったクラフトマンシップ溢れる仕上がりの美しさは他ならない。
毎週工場見学ツアーを行なっているみたいなので、予約すれば誰でも中に入って製作工程を見たり、職人さんに自由に気軽に質問ができる。作っているところを間近で見ると、色々感じることがあると思う。
この日は、電車の本数が少ない関係で、早く着きすぎた。スタッフから2階のショールームで待つように言われ、待つ間ズラーッと並んだK.Yairiのギターを眺めてた。
個人的に好きなのはRFシリーズ。焼き印とエンジェルロゴ、指板はドットがなくて12fのところだけ貝殻が入ってて見た目が可愛い。小ぶりで抱えやすいし、オールラウンドに使えるバランスの良さがある、とってもいいギター。
限定品で今は手に入らないけど、80周年の時にリリースされた極 -KIWAMI-というモデルも絶品だった。
少人数でやっている工房にしては、ラインナップの多さも魅力の1つ。現行のカタログモデルはシンプルなデザインが基本だけど、ウクレレやダブルネック・ギター、バリトン・ギターのようなイレギュラーな仕様にも柔軟に対応してくれるので、フルオーダーもセミオーダーもK.Yairiはとにかく人気が高い。
時間になって、工場見学ツアーが始まった。
はじめに案内されたのはカスタムショップ。カスタムショップはその工房の最高峰製作者 (マスタールシアー)の作業場で、オーダー品や特別なモデルを1人の職人が材料の選定から仕上げまで行う。「僕のギターはカスタムショップ製です」と言えば、かなり気合の入った一本だということが分かるほど強い意味合いがある。
この日は小池さん (下の写真)、道前さん、伊藤さんの3名が出勤していて、丹羽さんはいらっしゃらなかった。4名とも日本のアコギ界ではよく知られた名工。伊藤さんのギターは残念ながら触ったことはないのだけど、他のお三方のギターは務めていたショップでオーダーしたことがあるので弾いたことがあって、どれも繊細で見るからに優等生ッて感じ。特に丹羽さんのモデルは見た目も演奏性も最高でした。
そしてこの作業場にはカスタムショップで作られたギターのいくつかが壁に展示されていて、ホントにどれもキレイな見た目だった。 (よー触らん)
特にこのギターがカッコよかった。絶対いい音するやん。
次に案内されたのはリペアのお部屋。
ここには全国から修理品が集められる。そんなにたくさんの修理依頼品はなかったけど、1人で回すのは大変やろなぁといったくらいの量感ではある。担当者の松尾さんは「この時期は修理依頼が多い。人間と同じで、冬はギターも不調になりがちなんです。」とおっしゃった。
作業場はこんな感じ。
使い込んだ古さはあるものの、整理整頓はやっぱり作業場の基本やね。
次はブレーシングの加工作業場。製材された板に、補強のための棒 (ブレーシング)を貼り付け、それを適切な軽さに削っていく。Gibsonの工場レポートでも書いたが、この工程はとても大事。
さらにボディの側面を作って加工したり、
箱状に組み上げたり、
ボディのフチに模様 (バインディング)を入れる作業や、
ボディとネックがアリミゾ式にしっかりとハマるよう微調整。この工程、マジで命。
そしてネックを形成。K.Yairiのギターはネックが握りやすい形状になっているのだけど、1本1本こうやって削り出している。これを個体差が出ないようにやり続けるのはすごい。
そして組み終わったボディをサンディング、
からの塗装 (見づらい)。
塗装ブースは流石に入れなかった。
そしてそのあとはフレットの打ち込み。
フレットは人の手で最終調整をするが、打ち込みはマシンで行うらしい。こんなん、初めてみた。ちなみにこのマシンを作ったのはマスタールシアーの小池さんらしい。
そのあとはバフがけ。ギターの表面にツヤを出していく。バフは高速で回るので、ギター本体を当てて磨く時にギターを落としてしまわないよう、結構力がいるとのこと。このセクションは若手の登竜門だと説明されていた。
そしてブリッジや糸巻きを装備して、検品へ。
検品も1人でやっているみたい。
この写真は保証書や製品タグを楽器に付けているところ。
こうして完成したギターは別の小部屋で管理される。
この部屋は湿度や温度が管理されているだけでなく、クラシック音楽が爆音で流れている。「K.Yairiでは音楽を聴かせてシーズニングしている」というのはウワサには聞いていたけど、ほんまにそうやった。
実は部材を管理している別の部屋でも、湿度管理をしつつ普通のポップスをまぁまぁの音量で流していて、木材に音楽を聴かせる (=振動を与える)ことで振動に慣れさせることが目的らしい。アコギはボディ全体の響きが重要なので、出荷前にできるだけボディに振動を与えておくことでエイジングした状態を作り出す意図があるとのこと。
作られて間もない新品のギターは「音が固い」「音が若い」と言われるのは、振動癖がついてないせい。
湿度は50%ちょい、温度は16度くらい。この部屋が最も快適だった。
最後におまけ。
ヤイリギターのゆるキャラの、やいりくん。どことなく『クラッシュバンディクー』のアクアクッぽさもあるのがなんかいい。
このやいりくんのガチャが事務所に設置されていて、1回500円で回せる。缶バッチやボールペンが当たるらしく、シークレットの商品はおそらくクリーニング・クロスとタンブラー。僕はタンブラー目当てで1回まわしてみた。
カウンターで専用のコインを買う。早速回してみよう。
シークレットの1つ、ギタークロスが当たった。僕の記憶ではこのクロスは¥2,000くらいで販売されている高価なものなので、¥500で当たったと考えるとだいぶいいものをもらったんじゃないか。タンブラーはやっぱり欲しかったので、普通に売ってるやつを普通に購入。いいお土産になった。
今回の見学ツアーでは木材のブックマッチや製材しているところを見ることができなかったけど、K.Yairiのサイトに載ってる動画ではその様子が少し映っていたのでシェア。
僕が国産ギターを好きな理由は、「作ったところで治せる」というメリットがあるから。K.Yairiのギターは見た目の良さや音の暖かさだけじゃなく、演奏性が高いところもいい。それに弾き語り/ソロギター問わず扱えるし、タフなのでライブで持ち運びしても故障のリスクが少ないのはありがたい。あと、あんまり世間に伝わってなさそうなメリットを1ついうと、付属のハードケースが軽い。普通ケースだけで何キロもあるものだけど、K.Yairiのケースは軽くて全然ストレスがない。ケース自体は傷つきやすいけど…。
見学を通して、職人さんたちがギター (木材)とすごくピュアに向き合っているのがよくわかったし、ものづくりの凄さをありありと感じることができた。
帰り際にスタッフさんと少しお話をしたのだけど、元々の生産数が少ないのに加えて近年関西では取り扱いが減少傾向にあると言ってて、少し悲しくなったなぁ。まぁ、直接行けば好きなだけ見れるしスタッフさんも良い感じの人だったので興味あれば皆さんもぜひ。僕もいずれ1本オーダーしよう。
Midville’s
中村
