考える音楽講師放送禁止になった楽曲たち

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放送禁止になった楽曲たち

講師の中村です。
世の中には放送禁止になっている音楽があります。今回はそれらに軽く簡単にご紹介。

先に断っておきますが、”放送禁止”という制度は厳密には1988年から解除されており、これから紹介する全ての曲が今では視聴可能になっています。ただこれらをテレビやラジオなど公共の電波で流すことは今もほとんどないそうです。不思議ですね。

国家の誇りを傷つけると見なされた歌

1999年の忌野 清志郎 Little Screaming Revue (いまわのきよしろう・リトル・スクリーミング・レビュー)のアルバム『冬の十字架』は、放送禁止ではなく発売自粛となった名盤です。このアルバムの中に収録された『君が代』はパンクロックにアレンジされ、結果的にメジャーレーベルではなくインディーズからのリリースとなりました。これが冷やかしと見なされたのか、あるいは間奏部分でアメリカ国歌をモチーフにしたメロディがよくなかったのか…真相は謎です。

誤解を恐れずに敢えて言いますが僕は『君が代』が結構好きです。特に国粋主義者ではないのですが、『君が代』の歌詞はとても美しいと思っています。理由は詞の美しさ。多くの国歌は「敵軍は残酷だ」だの「敵をやっつけろ」だの「忠誠心を尽くせ」だの、結構オラついた歌詞が多いのです。日本の『君が代』は『万葉集』から抜粋された詞 (作者不明)で、ある男性に思いを寄せる女性からの恋文であるとされる説が有名です。なので、これを自分の歌い方で表現することが悪いとは思いませんね。例えそれがパンクであったとしても。

国歌特集はいずれ記事にしてもいいかも。

自衛隊を讃美 (揶揄)した歌

伝説のフォークシンガー、高田 渡が1962年に発表した『自衛隊に入ろう』も有名な放送禁止歌です。彼の楽曲はいくつか放送禁止扱いとされていますが、ひねりが多く一見して何が問題なのかよく分からないことが多いです。この『自衛隊に入ろう』の歌詞もてっきり自衛隊を賛美しているのかと思いきや、実際には揶揄していたのだと。まぁ、そう捉えるのが筋だと思います。

鉄砲や戦車やひこうきに
興味をもっている方は
いつでも自衛隊におこし下さい
手とり 足とり おしえます

自衛隊に入ろう 入ろう 入ろう
自衛隊に入れば この世は天国
男の中の男はみんな
自衛隊に入って 花と散る

日本の平和を守るためにゃ
鉄砲やロケットがいりますよ
アメリカさんにも手伝ってもらい
悪い ソ連や中国をやっつけましょう

これが明らかに皮肉であることを裏付けるのは、彼が共産党員として有名だったという点が挙げられます。なので彼が自衛隊員のためにこれを歌ったとは考えにくいのです。ところが本人の意図に反して、実際にこの歌を聴いた若者が自衛隊に入隊したり、自衛隊がキャンペーンのためにこの曲を採用したという過去があります。僕が高田 渡だったら、こんなにも皮肉が伝わらないのは表現者として悔しい気持ちになるかもしれません。

余談ですが僕は彼の『生活の柄』という歌が大好きです。雰囲気から歌い方、ギターの演奏まで何もかも良いです。知らない方は、ぜひ聴いてみてください。

反戦歌

日本の曲ではありませんがCreedence Clearwater Revival (クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル: CCR)の1970年の楽曲『Have You Ever Seen The Rain? (雨をみたかい)』はアメリカで放送禁止されている歌の1つです。ギター&ボーカルのJohn Fogerty (ジョン・フォガティ)は元軍人でした。と言っても志願兵ではなく、ベトナム戦争中の1960年代は徴兵制があったため、それによって服務していたと思われます。その時の経験からタイトルの”雨”はナパーム弾に例えられ、この歌は反戦歌であるという認識が広まり、放送されることがありませんでした。日本では普通にCMとかで流れていたので、知っている人も多いと思います。

Someone told me long ago
There's a calm before the storm
I know it's been comin' for some time
When it's over so they say
It'll rain a sunny day,
I know shinin' down like water

昔誰かが言ってたんだ
嵐の前は静かになるんだって
ずっとそうだったから知ってるよ
彼らが言うには静けさが終わると
晴れてるのに雨が降るんだって
まるで水のように降りそそぐんだ

訳: 中村

反戦歌であったことはもともと本人の証言によるものですが、後年John Fogerty自身が反戦歌であることを否定しています。実際にアメリカの南部の方では晴れているのに雨が降る現象 (いわゆる狐の嫁入り)が多いらしく、彼の出身地カリフォルニア州でも稀にあることだといいます。その「晴れた日」はCCRの黄金時代を、「雨」はバンドメンバー間の行き違いを予兆するような暗雲であると訂正し、この歌は反戦歌ではないことを後年になって弁明しました。余談ですがアメリカ南部では狐の嫁入りのことを「悪魔が妻を殴る」と表現するそうです (意味わかんないですね)。

今となってはどっちの意味で曲を書いたのかはわかりません。実際にこの曲を書いた2年後にはバンドは不仲で解散していますが、CCRが曲をリリースする1年前のアルバムにも『Who’ll Stop The Rain (誰がこの雨を止める?)』という反戦歌を書いていますので。やっぱり戦争経験者として思うところがあったのだと思います。でも反戦歌であると公言すると放送禁止になるし、複雑ですね。

ちなみにアメリカの放送禁止は、日本の制度的な様式とは違って放送局や番組責任者、ラジオDJなどの自由裁量に任せられているとのことです。

部落差別問題に触れている歌

岡林 信康といえば、部落問題について考えさせられる楽曲がいくつかあります。今回紹介する『手紙』もその1つ。とても悲しい歌です。

私の好きな みつるさんは
おじいさんからお店をもらい
二人 一緒に暮らすんだと
うれしそうに話してたけど
私と一緒になるのだったら
お店をゆずらないと言われたの
お店をゆずらないと言われたの

私は彼の幸せのため
身を引こうと思ってます
二人 一緒になれないのなら
死のうとまで彼は言った
だから全てをあげたこと
くやんではいない別れても
くやんではいない別れても

もしも差別がなかったら
好きな人とお店がもてた
部落に生れた そのことの
どこが悪い なにがちがう
暗い手紙になりました
だけど私は書きたかった
だけども私は書きたかった

これがフルコーラスの歌詞です。ある被差別部落出身の女性が書いた遺書を元に作詞されています。その手紙を書く時、女性はどんな気持ちだったかを考えると、辛い気分です。でも、お店継がずに結婚すれば良かったんじゃね?とか下世話なこともよぎってしまいますが。身勝手ですね、はいすみません。

とてもシリアスな歌だと思いますが、この曲も残念ながら放送禁止です。部落出身者の中にはこの曲を好意的に捉える人もいて、特に抗議やクレームを申し立てたこともないそうです。なぜ放送しないのか、分かりません。

1970年代、人気絶頂だった岡林 信康はアルバム『俺らいちぬけた』の発表後、若者向けの音楽産業から退いてしまいます。その後は低浮上ながらも個人で演奏活動を続けているそうです。この歌はしばらく封印されたとのことです。ある問題提起をすると、話題性でボロ儲けしているのではないか?という別の批判が出てくることがあります。もしかしたら、そういうことがあったのかもしれません。まぁ、憶測の域を出ませんが。

音源はApple Musicなどで聴くことができます。

性的にアウトだった歌

1981年にリリースされた原 由子『I Love Youはひとりごと』。作詞作曲は、夫・桑田 佳祐。この曲が出た時はまだ結婚していませんでした。

私好みのサイズであっても
いきな文句で口説かれようとも
割とハードなモデルの仕事
ムリなポーズじゃ 絵にならぬ
私は花のように生きて 弱気に出たらだめなの
やさしいだけの男より 情熱の ORAL
ちょっと待ってよ いっちゃいそうは ひそやかに
ささやくだけの方がいい
あなたしだいで もっと感じる女の背中
ちょっと待ってよ I LOVE YOU はひとりごと
情けない話しだよ
吐息ひとつで もっと感じる
もっと感じるもっと感じる女ですもの

この曲が放送禁止に指定された後、抗議の意味でゲリラライブを行なったそうですが、警察が出動する事態となります。そのゲリラライブの様子は2019年にリリースしたサザンオールスターズの『愛はスローにちょっとずつ』のMV内で観ることができます。

放送禁止歌はある種の問題提起

現在では放送禁止リストという概念はなくなったものの、やはりここに紹介した作品たちのように特定の主義や信条を匂わせるイデオロギッシュなものは相も変わらず敬遠されるのが日本社会の性格です。誰かを”故意に”傷つけているワケではないのに、これは良くない、あれはダメと決めつけるのはどうなのか?という作り手の感情にも理解をしますが、僕は放送自粛そのものが悪いとはそれほど思いません。ただ過激な表現でみんながそれについて少しでも考えるキッカケになれば、僕らはどんどん問題提起をすべきなのです。

Midville’s
中村

音楽講師 / ビートメイカー

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