考える音楽講師絶対音感は身につけるべきか?

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絶対音感は身につけるべきか?

ギター講師の中村です。
今回は絶対音感にまつわる誤解と、相対音感ついてお話しします。

先に言っておきますが、絶対音感は魔法の能力ではありません。結構夢壊すことを今からたくさん言うかもです。

絶対音感にまつわる誤解

皆さんがイメージする絶対音感は、手を叩いた時の音でさえも何の音名かが当てられる、みたいなものだと思います。中にはそーゆう人もいますが、全員がそうではありません。

まず絶対音感を定義すると「比較なしで音を当てられる」ということです。でも比較なしで音を当てられる人がみんな絶対音感を持っているとは限らないのです。相対音感をガッチガチに鍛えた人なら、比較せずに音を当てることができるようになります。

最もポピュラーな誤解は、絶対音感があれば音楽家として秀でるという流言。これは残念ながら全く関係ありません。絶対音感は「比較なしで音を当てられる」と言うだけの話であり、それは「耳コピが正確にできる」くらいの特典があるだけで、勝手に歌が上手くなるワケでもなければ、演奏ができるワケでもなく…。能力を得るのはまた別です。楽譜を正確に読むことはできるでしょう。でもそれくらいしか思い浮かばないです。

比較なしでコーヒー豆の産地を当てることができるオッサンなら誰でも、最高のコーヒー豆を栽培できるんでしょうか。いや、比較して違いを見出す方がカッコイイと僕は思います。

また、稀に生まれつき絶対音感を持っていると言い張る方もお見受けしますが、それも間違いである可能性が非常に高いです。絶対音感は原則として幼少期に訓練をして身につけます。恐らく物心がついて訓練したことを忘れているだけか、幼少期に記憶改竄されているか……。

気付いて!お父さん!お母さん!

入会前のヒアリングの時点で、我が子に絶対音感を身に付けさせたがる親御さんを何度か見てきました。もちろん絶対音感は耳コピしたり、曲をたくさん正確に覚えたりするには役に立つスキルですので、便利なのは否定はしません。ただあまりにも神格化されすぎていて、デメリットに目を向けない人が多いです。

絶対音感を持っていることがかえってマイナスに機能している人も少なからずいます。例えば『かえるの合唱』の歌詞が覚えられない子供。彼には「かーえーるーのーうーたーがー♪」がこう聞こえます。

ドーレーミーファーミーレードー♪

そうです。楽器が音名を歌っているように聞こえてしまうのです。これは大変ですね。ラップとか覚えられませんよね。ずっとソソソソソソソソソソソソソソソソソソソソ…。

またちょっとした雑音が気になってしまい、集中力を欠くようになってしまう人もいます。本人曰くストレスが大きく「生きづらくなる、オススメしない」とのことです。

絶対音感はあらゆる音の響き (空気振動という物理現象)を音名でしか判断できなくなるため、低いドの音と高いドの音を同じ音として扱ってしまう現象も起きます。ある生徒さんは自分が絶対音感を持っていることに気付いておらず、メロディを音名で説明している時にいつもオクターブを間違えてしまうのです。その間違いを指摘すると「でも同じドの音だから、どっちでも良いんじゃないんですか?」と。

その方は楽器経験もこれと言ってなかったため、音の高さの違いを判別することに最初は苦戦していました。しばらくすると慣れてきたようですが、そーゆうケースも存在すると。

これらの例は絶対音感の程度にもよりますし、全員がこのようにマイナスに機能するワケではありませんが、自分の子供に音感を身につけさす前にもっと慎重になるべきだと僕は考えます。

というのも、絶対音感は物心が付く前しか訓練できません。それに一度身につけるとなかなか忘れないんです。しかも絶対音感を身につけてしまうと相対音感が身に付きにくくなるというデメリットもあります。それが本当にその子にとって必要かどうかは一度吟味する必要があるのではないでしょうか。

絶対音感は子供にしか身につかない

それでも絶対音感を身につけるんだ!という気合の入った方のためにお知らせしますと、絶対音感の臨界期は大体5-6歳頃までと言われております。それ以降でも身に付くことはありますが…可能性は1割未満とかなり低いです。

子供のうちじゃないと絶対音感が身に付かない理由は非常にシンプルで、”比較して答えを導く能力が子供の方が低いから“。成長すると複数の情報を同時に処理し、それを根拠に断定していく考え方が身に付いてしまうため、そうなる前に、「これがド、これ以外はドじゃない」などと1つ1つ教えていくのが絶対音感の仕組みです。

ギターはピアノや何かと違って”絶対音”を弾く楽器ではありませんから、むしろ身に付けなくていいと考えている指導者がほとんどじゃないでしょうか。

ギターにはカポタストという移調器具がありますので、「レミファソラシド」や「ファソラシドレミ」などの調 (キー)を便宜上「ドレミファソラシ」と”階名”で認識する機会があります。絶対音感を身につけてしまうと、”ド”はいつでも絶対に”ド”となってしまい、システム上の”レ”などと置き換えて考えることがしにくくなるでしょう。

もちろんピアノのように絶対音を鳴らす楽器を演奏するなら、絶対音感があることはそれほど邪魔にはならないかもしれません。

相対音感とは何か?

ある2音を聴いて、それがどのように響き合っているか、その調 (キー)ではどのような役割を持っていて別の調ではどのように機能するかなど、音を多角的にとらえる力のことを相対音感と言います。これは大人になっても鍛えることができます。

具体的には、比較すればズレていることが分かるとか、カラオケでキーを変更しても問題なく歌えるとか、そーゆう感覚がまさに相対音感ですね。これが研ぎ澄まされれば、絶対音感と同じように比較なしで音程をとることもできますし、もちろんオクターブの違いもちゃんと分かります。

僕は絶対音感保有者ではありませんが、比較なしで当てられる音が1つだけあります。110Hzもしくは440HzのA音 (ラの音)、ギターで言うと5弦の開放弦に当たる音です。これなら一定の精度で当てることができます。(※天気の悪い日や寝不足の日はなぜか全然当たりませんが…。) 今アプリのチューナーでラの音を声で出してみたら、一発で当たりました。今日は調子の良い日のようです。

絶対音感は絶対にいるか?

ここまでの文脈でお分かりいただいてると思いますが、僕は1人の指導者として、絶対音感は身に付けなくても良い (持ってない人は持ってないままでOK)という立場に立っています。

ただ、教室 (音楽コミュニティ)の指針としては絶対音感の有無に関係なく、音楽に必要な知識“と演奏に必要な技術を有機的につなげていくことが大切だと考えています。そしてそれらの知識や能力はあくまでも複合的なものであり、絶対音感というのはその1つに過ぎず、しかも諸刃の剣であるということを認識していただきたいのです。絶対音感そのものは悪ではありませんが、この”宗教”を盲信している人がこの記事を読んで立ち止まって考えるキッカケになれば良いなぁと思います。

 

 

Midville’s
中村

音楽講師 / ビートメイカー

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