ギター講師の中村です。
今回は絶対音感にまつわる誤解と、相対音感ついてお話しします。
先に言っておきますが、絶対音感は魔法の能力ではありません。夢を壊すようなことを今からたくさん言うかもです。
目次
絶対音感にまつわる誤解
皆さんがイメージする絶対音感は、歌のメロディを音名でスラスラ言えたり、日常の雑音が全てドレミで聞こえたり、パチンと手を叩いた音さえも何の音名かが当てられる、みたいなものだと思います。中にはそーゆう人もいますが、全員がそうではありません。
まず、絶対音感を定義すると「比較なしで音を当てられる」ということです。でも比較なしで音を当てられる人がみんな絶対音感を持っているとは限りません。相対音感をガッチガチに鍛えた人なら、比較せずに音を当てることができるようになります。
最もポピュラーな誤解は「絶対音感があれば音楽家として秀でる」というもの。これは残念ながら関係ありません。絶対音感は「比較なしで音を当てられる」と言うだけの話であり、そこから先のセンスや演奏力は別です。例えば「耳コピが正確にできる」とか「ズレた音を修正できる」などの特典はあるかもしれませんが、勝手に歌が上手くなるワケでもなければ、演奏技術が向上するワケでもありません…。技術は技術、能力は能力です。僕は比較なしでコーヒー豆の産地を当てることができますが、だからと言って最高のコーヒー豆を栽培することはできませんし、味覚が優れていることの証左にもなりません。ただ、産地クイズが得意なだけ。それ以上でもそれ以下でもないのです。一番役に立つのは、違いが分かること…ではありませんか?
生まれつき持っている人はいない
もう1つよくある勘違いがあります。それは「生まれつき絶対音感を持っている」というものです。「自分は本当に音楽を習ったことはないし、生まれつき音感が優れていた」と言い張る方を稀にお見受けしますが、物心がついて訓練したことを忘れているだけか、幼少期に記憶改竄されているかのどちらかである可能性が高いです。
あとで詳しく書きますが、絶対音感は原則として幼少期に訓練をして身につけます。母語と同じで臨界期があり、6歳くらいまでに習うといいとされています。
絶対音感の欠点
入会前のヒアリングの時点で、我が子に絶対音感を身に付けさせたがる親御さんを何度か見てきました。多くの方は絶対音感が音楽教育的に役に立つものだと思っているのでしょう。まぁ、確かに便利なのは否定はしません。ただあまりにも神格化されすぎていて、デメリットに目を向けない人が多いです。
冒頭で絶対音感を「比較なしで音を当てられる」と定義しましたが、これは言い換えるとあらゆる音の響き (空気振動という物理現象)を音名でしか判断できなくなるということです。
例えば学校で『かえるの合唱』を覚える時、絶対音感の子供には「かーえーるーのーうーたーがー♪」の歌詞がこう聞こえます。
ドーレーミーファーミーレードー♪
そうです。絶対音感を持つ人の中には、楽器が音名を直接歌っているように聞こえてしまうのです。音感が良すぎると、人によっては本当に「音」しか取れない場合があるようです。
もう1つ弊害があるとすれば、ちょっとした雑音が気になってしまい、集中力を欠くようになってしまう人もいます。これは比較的有名な話で、本人曰くストレスが大きく、あらゆることに対して神経質になってしまいます。要は絶対音感はちょっと生活しづらくなる場合もあるということ。
また、ある生徒さんは自分が絶対音感を持っていることに長年気付いておらず、音名でメロディを覚えると低いドと高いドの区別がつかなくなってしまい、オクターブをチグハグに演奏することがありました。特異な例ではありますが、音感がいいことと演奏力があることに関連性がないことを示していると思います。
もちろん、ここに挙げた例は絶対音感保有者の全員が抱える問題ではありません。人それぞれ程度があり、ちょっとずつ違います。極端な話をすると、絶対音感をトレーニングする時に使っているピアノの調律がズレていたら、その人が持っている絶対音感は正確とは言えないのです。その上、ズレた音以外受け入れられなくなります。かえって選択肢を狭めていると思いませんか?
自分の子供に音感を身につけさせたいと思うのであれば、もっと慎重に考えるべきです。絶対音感は一度身につけると忘れることは難しいだけでなく、後から相対音感が身に付きにくくなるという面もあります。それがその子にとって本当に必要かどうかは一度吟味するべきではないでしょうか。
絶対音感は子供にしか身につかない
トレーニングの臨界期は大体5-6歳頃までと言われております。それ以降でも身に付くことはありますが…可能性は1割未満とかなり低いです。子供のうちじゃないと絶対音感が身に付かない理由は非常にシンプルで、”比較して答えを導く能力が子供の方が低いから“です。成長すると複数の情報を同時に処理し、それを根拠に断定していく考え方が身に付いてしまうため、そうなる前に「これがド、これ以外はドじゃない」などと1つ1つ教えていくのが音感教育の仕組みです。
お子様が小学生に上がっている場合、もう手遅れです。また、小学生以下の場合ギターやウクレレを弾くのに体が適してないですし、小さな手で押弦するにはまだ痛いかと思います。
ギター/ウクレレ講師の立場から
それでも絶対音感を身につけるんだ!という気合の入った親御さんのために、ギター/ウクレレという楽器の観点から考えてみます。これらの弦楽器は”フレット楽器”というジャンルで括られることがあります。バイオリンのように「どこに何の音があるか分からない状態」ではなく、フレットという”仕切り棒”を抑えれば絶対に何かしらの音が出ると約束された設計になっています。ただし、フレット楽器の欠点としてピッチが正確でない場合があることが挙げられます。少しでも弦を引っ張れば簡単に音程が狂います。これでは絶対音感のトレーニングは難しいのです。
また、そもそもギターやウクレレはピアノのように”絶対音”を弾く楽器ではありませんから、絶対音感はもっと必要ありません。恐らく、そう思っている講師は多いと思います。
ギターにはカポタストという移調器具があったり、音名ではなく”階名“で音を捉える考え方があります。絶対音感を身につけてしまうと、階名に置き換えて考えることがしにくくなるとも言われています。
要は、音程を捉える方法ッていくつかあるんですが、絶対音感を身につけることで他の選択肢を潰すことになってしまうんです。
音感は絶対的なものでなくていいのです。
相対音感とは何か?
ある2音を聴いて、それがどのように響き合っているか、その調 (キー)ではどのような役割を持っていて別の調ではどのように機能するかなど、音を多角的にとらえる力のことを相対音感と言います。これは大人になっても鍛えることができます。
具体的には、”比較すれば”ズレていることが分かるとか、カラオケでキーを変更しても問題なく歌えるとか、そーゆう感覚がまさに相対音感ですね。この感覚を磨いていけば、最終的には絶対音感と同じように比較なしで音程をとることもできますし、もちろんオクターブの違いもちゃんと分かります。
僕は絶対音感保有者ではありませんが、比較なしで当てられる音が1つだけあります。110Hzもしくは440HzのA音 (ラの音)、ギターで言うと5弦の開放弦に当たる音です。これなら一定の精度で当てることができます。(※天気の悪い日や寝不足の日はなぜか全然当たりませんが…。) 今アプリのチューナーでラの音を鼻歌してみたら、一発で当たりました。今日は調子の良い日のようです。
結論: 絶対音感は絶対にいるのか?
ここまでの文脈でお分かりいただいてると思いますが、僕は1人の指導者として、絶対音感は別に身に付けなくても良い (持ってない人は持ってないままでOK)という立場でいます。この記事では音楽的な才能との因果関係はないことを踏まえた上で、もっと慎重になるべきという主張で書いてきました。
もちろん、絶対音感そのものは素晴らしい能力であり、全くもって悪ではありません。ただ僕のレッスンの指針は“音楽に必要な知識“と“演奏に必要な技術“を有機的につなげていくことを重視しており、受講者に絶対音感があろうがなかろうが今のところ関係ないのです。そしてそれらの知識や能力はあくまでも複合的なものであり、絶対音感というのはその中の1つに過ぎないのです。下手をすれば飲み会で大して盛り上がらない”一発芸”で終わってしまうだけでなく、神経質で生きづらい人格を形成するキッカケになるかもしれません。そういったデメリットを鑑みて、意思決定ができない小さな子供にそれを強いることでその先の人生に影響があるかもしれないことをこの記事で認識していただきたいのです。
まるで”いきすぎた宗教”のように盲信している人もお見受けします (教育熱心なのは素敵ですが!)。この記事を読んで立ち止まって考えるキッカケになれば良いなぁと思います。
Midville’s
中村
