レモンオイルは本当に悪なのか?

講師の中村です。
今回は「レモンオイルはギターによくない」というネット上に出回る意見についてです。ギター系のインフルエンサーやYouTuberのコンテンツ内でよく見かける言説ですが、結論から言うとそんなことありません。以下に調べたことをまとめていきます。

また本記事で言う「レモンオイル」にはオレンジオイルなどの別の「柑橘由来の楽器用オイル」も含んでいるとして読んでいただければ幸いです。

目次

    レモンオイルを使う理由

    ギターの指板や、アコースティック・ギターのブリッジにオイルを塗布して使います。これらの部位にはクリア塗装が施されておらずほぼ無垢な状態であるため外気の影響を受けやすいので、保護してあげる必要があります。特にこの部位は紫檀 (ローズウッド)や黒檀 (エボニー)などの硬質な木材が使用されいて、乾燥すると割れやすいです。割れても修理はできますが、大掛かりな作業が必要になりますし、お金も結構かかるのでなので日頃の手入れ (保湿)がマストです。年に1-2回で十分だと思います。乾燥する季節にはよく世話をしてやるのがいいです。

    またオイルにはクリーニングの効果もあるため、指板のお掃除としても使えます。

    オススメ商品

    僕が使っているのは2種類。

    1つ目はHOWARD社のFeed n’ Wax (フィーデンワックス)というのを使います。これはオレンジオイルに蜜蝋とカルナバを混ぜたワックスで、木が持っている本来の自然な美しさを取り戻しつつ、汚れを落とす効果があります。使い方はギター用のクロスやウエスに500円玉程度のワックスを垂らして、指板やブリッジを丁寧に拭いていきます。10-20分程度おいて軽く乾いたら、乾拭きしてあげればOK。使用頻度が少ないのでボトル1本で数年は使えると思います。家の家具などに使い回すのもアリだと思います。ただ注意点があって、この蜜蝋は放っておくと硬化するため、ボトルの中で固まってしまった場合は面倒ですが湯煎してから使ってください。

    そんな面倒なアイテムではありますが、高い浸透性とクレンジング力を併せ持つオレンジオイルの良さと、天然由来のワックスである蜜蝋やカルナバの保湿/保護力を兼ね備えているため、保湿もクリーニングもツヤだしも1本で済むのは使い勝手がいいです。通常のオイルよりもややとろみのある質感で変に広がったりしないのもマル。

    もう1つの愛用品は、生徒さんやアーティストの所有ギターをメンテナンスする時に使っているねこだまり工房の自家製クリア蜜蝋ワックス。こちらは固形なので、繊細な塗装のギターにも躊躇なく塗布できます。少しクロスにつけて拭くだけですごくキレイにツヤが出て、黒檀 (エボニー)なんかに使うと一層高級感が漂います。とても小さな容器に入っていて、かさばらないため、出張でメンテナンスをする時はこれ一択です。

    レモンオイルの危険性

    オイル使用時における注意点が2つあります。1つは「塗装」です。一部の高級ギターメーカーはニトロセルロース・ラッカーを採用しており、これがレモンやオレンジなどの柑橘系オイルとの相性があまりよくありません。もしオイルがラッカーと接触してしまった場合、ラッカーが溶けるなどして傷んでしまう可能性があります。もう1つの注意点は「金属パーツ」。指板に塗布したレモンオイルがフレットを劣化させてしまうとも言われています。そのため、レモンオイルやオレンジオイルを使用する時は塗装や金属パーツに配慮して慎重に作業しなければなりません。

    金属を腐食したり塗装を傷めてしまうのはd-リモネンと呼ばれる柑橘系油に含まれる酸性の成分が原因です。ゴムやプラスチックなども溶かす力があります。みかんの皮で風船が割れる、あれです。

    リモネンには強いクレンジング効果があります。ドライクリーニングなんかと同じで、汚れの主成分である油とくっついて揮発させることで汚れを落としています。「揮発してしまうと保湿効果が低いのではないか」と疑う方もいらっしゃるかと思いますが、リモネンはあくまでも汚れ落としのための成分という認識です。まぁ、化粧水にもアルコールが入っていますし、揮発性物質が入っているからといって保湿効果が弱い、というのは少し見方が違いますね。

    ちなみに塗装や金属に優しいリモネンフリーの商品もありますが、比較すると保湿効果、クレンジング効果共に落ちる傾向があります。

    “レモンオイル悪玉説”の誕生

    このような事実から、メーカーの中には「レモンオイルは使わない方がいいのでは?」と見なす人たちもいます。世界最古のアコギメーカー、Martin社は自社のWEBサイト内のQ&Aにおいてこんなことを書いています。



    レモンオイルに含まれる酸は塗装を破壊し、フレットや弦を傷めるから弊社では推奨しない」(Martin Guitars FAQs)


    レモンオイル悪玉説はこの一文を読んだ人たちが「あの天下のMartinがレモンオイルは使っちゃダメだと言っているんだ!!だからレモンオイルは悪なんだ!!!」と曲解して広めたものと思われます。

    本当でしょうか?以下に考えをまとめてみます。

    ここからが本題!レモンオイルには一体何が入っているのか?

    確かにd-リモネンは楽器を傷める成分ではありますが、家具/楽器用として使われるレモンオイル (またはオレンジオイルなど)石油を原料とした鉱物油 (ミネラルオイル)が主成分で、化粧品やワセリンのように肌に触れたりしても大丈夫なくらいには安全に精製されています。このミネラルオイルには木材の保湿に必要なものが入っており、そこにクレンジング作用を持つレモンやオレンジの成分がごく少量混ぜられているだけです

    確かにMartin社の言うようにレモンオイルには金属パーツや塗装を傷める可能性があるのですが、ギターにレモンオイルが付着してもほとんどの場合、長時間触れていなければ危険ではないと考えていいです。これまで何百本、何千本とメンテナンス、修理品を見てきましたが、オイルで塗装がダメになったギターは見たことがありません。もし指板やブリッジ以外の部分に付着したらすぐに拭き取れば何の問題もありません。誤ってこぼしてしまわないよう、使用時には注意すれば良いだけの話。

    ロクに調べもしないYouTuberやブロガーが、まるでメーカーやディーラーがそんなことも知らないかのように「レモンオイルはダメだ」と広めるのはさすがにどうなんでしょうか。

    信じる前に考えよう

    Martinと並ぶ名門Gibson社のメンテナンスに関する記事で「メンテナンス時には濡れたガーゼをかたく絞って水拭きして、スチールウールで磨く」と、オイル類を一切使わないことに言及しました。これはクリーニングとしては結構昔からある方法ですが、水を使うとかえって乾燥してしまいますので個人的にはオススメしません。人間だって水仕事したら手が乾燥するでしょう。水で保湿できるなら化粧水など不要です。これは僕の推測ですが、Gibson社がメンテナンス時にオイルを使わないのは、Gibson社が使うラッカーは、他社のラッカー以上にオイルとの相性がよくないためだと思われます。ですので「ラッカーだから相性が悪い」のではなく「Gibsonだから相性が悪い」と認識した方がより正確ですね。

    また、誰が言い出したか分かりませんが、あるYouTube動画で「”指の脂”で十分に保湿されているからわざわざオイルなんて使わなくてもOK!」と豪語している人もいました。「今日は雨に濡れたから風呂入らなくても大丈夫!」みたいな理屈でしょうか。普通に考えてOKなワケがないんですが。

    情報を発信する側が、センセーショナルな内容で”自分以下の情弱”を釣って注目を集めようとする気持ちは仕方のないことですが、見る側も見る側で「最初に仕入れた情報が真実」「自分が理解できるものが真実」と思い込みがちなので厄介です。ここまで読んでくれた皆さんには感謝を申し上げます。何でもかんでも鵜呑みにしないように気をつけましょう。

     

    最後になりますが、「レモンオイルやオレンジオイルは注意して使えば基本的に問題ない」と言うのが僕の見解です。悪ではありません。情弱ビジネスこそが悪です。


    Midville’s
    中村