
レモンオイルは本当に悪なのか?
講師の中村です。
今回は「レモンオイルはギターによくない」というネット上に出回る意見についてです。結論から言うとそんなことありません。
レモンオイルを使う理由

ギターの指板やアコースティックギターのブリッジ部分は紫檀 (ローズウッド)や黒檀 (エボニー)などの硬質な木材を使用するのが一般的であり、また塗装などが施されていないため外気の影響を受けやすくなっています。空気が乾燥すると木が変形したり割れてしまうことがあり、その修復は結構大変な作業なので日頃の手入れ (保湿)が必要です。また指板は人の手で触る部分なので基本的に汚れが多く、それをクリーニングしてあげる必要があります。そこで保湿&クリーニングの両方できるレモンオイルやオレンジオイルが登場します。
オススメ商品
僕が使っているのは2種類。1つ目はHOWERD社のFeed n’ Wax (フィーデンワックス)というのを使います。これはレモンオイルに蜜蝋を混ぜたワックスです。年に2〜3回程度しか使わないので小さいボトルでも十分長持ちしてくれ重宝しますが、蜜蝋は放っておくと硬化することがありちょっと厄介です。

高い浸透性とクレンジング力を併せ持つレモンオイルの良さと、膜を張ってしっかり保護してくれる蜜蝋の良さの両方を兼ね備えている良いアイテムです。指板やブリッジに塗ってしばらく放置したら、乾拭きするだけ。
もう1つ、生徒さんやアーティストのギターをメンテナンスする時などはねこだまり工房の自家製クリア蜜蝋ワックスを塗布しています。こちらは固形なので、繊細な塗装のギターにも使いやすいです。少しクロスにつけて拭くだけですごくキレイにツヤが出て、黒檀 (エボニー)なんかに使うと一層高級感が一気に漂います。

レモンオイルが悪いと言われる理由
ネットにはレモンオイルは悪だと喧伝する反対派の人たちがいます。
世界最古のアコギメーカーであるMartin社も、自社のWEBサイト内のQ&Aにおいて「レモンオイルを使って良いか?」という質問に対し「オススメしない」と答えています。
Martin Guitar does not recommend using lemon oil on the fingerboard. The acids in lemon oil break down the finish of your guitar … speed the corrosion of the frets, and decrease the life of your strings. 「レモンオイルに含まれる酸は塗装を破壊し、フレットや弦を傷めるか弊社では推奨しない」(Martin Guitars FAQs)
レモンオイル悪玉説を唱えている人はこの一文を読んで「あの天下のMartinがレモンオイルは使っちゃダメだと言っている!!」とやや曲解して広めたものと思われます。
一般的には確かにMartin社の言うようにレモンオイルには金属パーツや塗装を傷める成分が入っている可能性があり、相性は良くありません。ただそれはオイルが長時間触れた場合の話。もし指板以外の部分に付着したらすぐに拭き取れば何の問題もありません。誤ってこぼしてしまわないよう、使用時には注意すれば良いだけ。
そんなにギターにとって悪影響ならばとっくに流通をやめているはず。メーカーさんはそんなにマヌケでしょうか。僕はそうは思いませんね。
色々あるオイル
僕らが楽器屋さんで手に入れることのできるオイルにも実は様々あります。
金属を腐食したり塗装と反応してしまうのはd-リモネンと呼ばれる柑橘系油に含まれる成分です。ゴムやプラスチックを溶かす力があります。小学生の時、みかんの皮を潰した時に出る液体で風船にかけて割ってみたり、目の中に入れて遊んだりしましたね (危ない)。シールをキレイに剥がしたい時なんかにも使えます。

リモネンは揮発性で、汚れの主成分である油とくっついてくれます。揮発性だと保湿効果が低いのではないかと言う方もいますが、揮発しないと汚れが落ちないんですよ。ドライクリーニングとかと同じ手法ですね。なので揮発性のオイルには蜜蝋など保湿力の高いものと混ぜて販売されていることが多いです。(最初に紹介したFeed n’ Waxがそうです。)

塗装や金属に優しいリモネンフリーというのもありますが、比較すると保湿効果、クレンジング効果共に落ちる傾向があります。
信じる前に考える
Martinと並ぶ名門Gibson社のメンテナンスに関する記事で「メンテナンス時には濡れたガーゼをかたく絞って水拭きして、スチールウールで磨く」と、オイル類を一切使わないことに言及しました。これはクリーニングとしては結構昔からある方法ですが、やはりオイルと比べると弱いですし、水拭きでは保湿できません。人間だって水仕事したら手が乾燥するでしょう。
Gibson社が使っているラッカーは少し特殊で、他社のものよりオイルとの相性が良くありません。恐らくそのためだと思います。
何かの記事かYouTubeの動画で「指板は、指の脂で十分に保湿されているからわざわざオイルなんて使わなくてもOK!」と豪語している人もいました。それはアレですか、「雨降ったから今日は風呂入らなくても大丈夫!」みたいな理屈でしょうか。やばいやん。いや、面白いけど…。
ネット上には数字集めのために自分以下の情弱を集めて不用意にネガティブキャンペーンをする短絡的な人間が一定数存在します。
使わない方がいいギター

こーゆう情報に触れると神経質になってしまう方もいると思いますので、柑橘系オイルを使わない方がいいギターについても触れていきます。
まずオイルはセラック塗装が使われているギター (ほぼクラシックギターしかないですが)との相性が良くありませんので、注意が必要です。ちなみにセラックは木の暖かい質感が出やすくて、音も良いし個人的には好きです。塗装修理がしやすいというメリットはありますが、スプレーなどではなくタンポで少しずつ手作業するためコストがかかるのと、塗膜が薄く外気の影響を受けやすいため、扱いが雑な人にはオススメできない点はデメリットです。
もう1つはGibsonギター全般ですね。先ほども書きましたが、Gibson社の塗装はちょっと特殊で、レモンオイルやオレンジオイルなどは使わない方がいいでしょう。

Gibsonの塗装がなぜ特殊かといえば、それは僕が実際にアメリカの現地工場でその話を聞いたからに他ならないんですが、実際Gibsonギターの多くはアコギもエレキも関係なく”ウェザーチェック (上の画像)”と呼ばれる特有のヒビ割れが起きます。これは他のメーカーではあまり見かけない現象です (ないこともないけど)。
これをいちいち直してたら貯金がなくなるのでこのヒビ割れを楽しむしかないのですが、神経質な人にとってはこーゆうのも気になってしまいますよね。何もしなくてもこんな風になってしまう性質があるくらいですから、Gibsonにオイルは、やめときましょう…。
レモンオイル=悪?
結局のところ、レモンオイルやオレンジオイルは悪なのか?僕はそこまで悪いものとは考えていません (情弱ビジネスが悪です)。
ラッカー塗装やセラック塗装には注意して使うべし、ッて感じですかね。よほどのことがない限りレモンオイルが直接的な原因となってギターを傷めることはほぼほぼ考えにくいと言うところです。そーゆう症例があるのは理解しますが、実際には見たことはありません。Martin社やGibson社がレモンオイルに対して肯定的な姿勢ではないのは確かですが、それをレモンオイル=悪と捻じ曲げて拡散する心もよく分かんないです。
Midville’s
中村
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中村
音楽講師 / ビートメイカー
『井上 陽水英訳詞集』 著: Robert Campbell <講談社>
ただ翻訳をしただけでなく、なぜそう訳したのかをあまり難しい言葉を使