考える音楽講師人間の行動は音楽に誘導されている

Blog

人間の行動は音楽に誘導されている

ギター講師の中村です。
今日は行動誘導効果というものの不思議について少し。

音楽は味覚を変える!

イギリスであるワインの試飲会を装った実験が開かれました。参加者に5種類のワインを飲んでいく過程で、BGMを変えていくとどのような変化が見られるか、というもの。1番から5番までのワインを順番に試飲したお客さんにどのワインが好みだったかを投票してもらったところ、5番が一番人気が高いと分かりました。この5種類のワインですが、実は1番と5番は同じワインです。が、その時かけているBGMに違いがありました。1番の時には甘くロマンチックなClaude Debussy (クロード・ドビュッシー)の『月の光』。ピアノ曲では僕が最も好きな曲です。Apple Musicの音源を貼り付けておきます。

1番のワインを飲んだ人は”甘く口当たりが良い”と感じた人が多かったとのことです。

 

5番のワインを飲む時には力強いRihcard Wagner (リヒャルト・ワーグナー)の『ワルキューレの騎行』。ヒーローが勇ましく登場するかのような凛々しい音楽です。こちらも有名な曲ですね。後半にかけての盛り上がりがゾクゾクしますが、どうでしょう、あまりBGMとして使うような曲ではないような気がします…。

対して5番のワインを飲んだ人は”力強い味”と感じた人が多かったのです。要するに音楽が作る空間によって感想が変わってしまうと。結果として同じワインであるはずの1番には誰も投票しませんでした。もちろん、全員が5番を飲む頃には酔っ払っていたから正常な判断が出来なかったのではないか?5番を飲むまでに温度変化でワインの味が変わったのではないか?など、考えられる説はありますが、実は全く別の実験で3つのグループが違うBGMで同じワインを飲む実験があり、この時もやはりゆったりしたBGMを聴きながら飲んだグループでは甘美な味、力強いBGMを聴きながら飲んだグループでは力強い味という風に感想が分かれたそうです。これは酔いや時間経過による味の変化は関係ないことの裏付けにもなると言えます。

このように、音楽によって我々の行動がコントロールされていることがあります。

購買意欲もコントロールされている

別の実験では音楽と購買意欲にも関係があるという結果が出ました。あるヨーロッパのスーパーの食品売場で、フランス産のものとドイツ産の食品を同じ場所に陳列していました。その売り場のBGMをフランスの音楽にするとフランス産の食品が5倍売れ、逆にドイツの音楽にするとドイツ産の食品が2倍売り上がったという話があります。この実験では異なるジャンルの音楽を使用しており、ポップスとクラシックとでは約3倍もの違いがあることが言われています (クラシックの方が高い)。シチュエーションに合わせて適切な音楽をかけることで更に高い売上を狙うことが (特にヨーロッパでは)マーケティングの1つとして戦略的に行われているようです。僕の家の近くにはコリアタウンがありますが、確かにあのエリアでJ-POPはかかっていませんし、逆にJ-POPがかかっていたらちょっと雰囲気が出ないなと思います。BGMのチョイスも適材適所、ということですね。

BGMで回転率をあげるカフェ

飲食店では戦略的なBGMの選曲が非常に重要だと言われています。

あるジャズ喫茶では、ゆったりとした音楽をBGMとして使用していましたが、あまりにも落ち着きすぎてしまうために、毎朝お客さんが新聞を読んだり長居するようになってしまったそうです。そのせいで本来忙しいはずのモーニングの時間帯の回転率が低く、売上がなかなか増えなかったそうです

そこで選曲を変えて少しテンポの速い音楽ばかりをかけるようにすると、新聞を読んで長居していたお客はコーヒーを飲んだらすぐに出ていくようになったとのこと。マリオの制限時間がなくなるとBGMが速くなって焦る現象と似ていますね。

実は勉強の妨げになっている音楽

音楽は単純作業を効率化させる効果もあります。

ある実験で、2つのグループに全く同じ内容の簡単な作業をさせました。片方グループはW.A.Mozart (モーツァルト)をBGMにし、もう片方のグループは無音で進めていきます。そうすると、BGMがあったグループの方が先に作業を終えることができました。

ところが知的作業を行う上で音楽は全く効果的でないこともわかっています。学生の頃、好きな音楽を聴きながら勉強をしていました。その方が気持ちが乗るからです。でも勉強は無音で行なった時の方が効率が40〜50%も異なるとのこと。体感的には音楽があった方が勉強が捗っているような感じがしますが、実際に数値化すると結構損していることがわかりますね… (もっと良い学校に行けたかも…)。でも音楽がなかったら勉強をしない、僕のような人もきっといるでしょう。そーゆう場合は勉強をする直前に好きな音楽を聴きリラックス状態を作っておくのが良いです。

頭を使う前には音楽を聴くと脳がウォーミングアップされて一時的に頭の回転がよくなることがわかっています。このことを裏付ける別の実験があります。ある2つのグループに空間把握てすとをさせたところ、作業前に10分間Mozartの音楽を聴いたグループの方が無音で10分間過ごしたグループよりも正答率が高く、またIQ値も5〜7の差が出たそうです。

 

…ところで、この手の実験ではなぜかMozartの音楽が使われます。そのため、こういった音楽が認知を手助けする実験の例を読んだ人が「モーツァルトの音楽を聴くと賢くなる!」と誤った要約をして広まりました。そこから派生した”胎児にMozartを聴かせると賢い子供が生まれる”など…いわゆるモーツァルト効果などと呼ばれる都市伝説は、現在ではほとんど否定されています。実際にMozartとF.P.Schubert (シューベルト)を聴かせたグループの間に認知力の差は出ませんでしたし、朗読テープを聴いたグループともほとんど変わらなかったそうです。童謡だろうとJ-POPだろうと、好きな音楽を聴くことが大切です。

音楽が作業前のウォーミングアップになる理由は、人間の脳は仕事やスポーツをしている時以上に音楽を聴いている時が最も活性化するからだそうです。面白いですね。

BGMに特化したクリエイター

実は商業施設のいたるところで、環境に合わせた音楽を使用することで来場者の行動を密かにコントロールしている例があります。

京都精華大学の小松 正史教授は、居心地の良い空間をお客さんに提供するための環境音楽を手掛けています。彼は実際に会場の広さを調べてスピーカーの数やその場に必要な音色、音量、テンポを調整し、さらにはその場で発生するであろう雑音との兼ね合いを考え、その場に相応しい音楽を作るクリエイターです。彼の書籍を読むと、音楽の可能性ッてすごいんだなと気付きがたくさんあります。

Midville’s
中村

音楽講師 / ビートメイカー

Up
H E L L O T H E R E
%d